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「小さな楽しみ」探しが自然になった
――1冊目の本がベストセラーになって、ハワンさんの考えや対人関係、または生活に変化はありましたか?
意外にも、それほどなかったような気がします。本が売れたので講演などの依頼も来ましたが、私のコンセプトとして「一生懸命生きてはいけない」と思ったので、たくさんお断りしました。今まで通り、自分がいちばんやりたいように、ただ気楽に遊んで暮らしています。
――「他人の目を気にせず生きよう」と説くハワンさんが、自分の名前をエゴサーチしたとは意外でしたね。
私も他人の目なんて気にならないと思っていたんですが、本が出ると反応が気になって。自分の名前を何度も検索して、ありがたいことに好意的なレビューをたくさん見つけましたが、記憶に残るのはなぜか悪い評価や悪口ばかり。とても苦しくて「これを続けていたらメンタルに悪い」と思ってやめました。他人の視線から自由になれる人は、ほとんどいないでしょう。それぞれ他人の評価に揺さぶられないようにするしかありませんね。
――今作はブログサイトで2019年にほぼ書き終わり、韓国で出版されたのが2020年7月。コロナ前に書いた話が、コロナの最盛期に出版されました。ハワンさんが前作から唱えていた「小確幸」(小さくても確かな幸せ)を見直す人が増えたのではないでしょうか。
そうですね。活動が制約され、人とも会えず、ほぼひとりで家にいるだけの日々ですから。いわば突然のコロナ禍が、猛スピードで走っていた私たちの足を止めたわけですよね? 一旦立ち止まり「どうすればいいんだろう」と自問しているうちに、今までとは違うものが見え始めたんでしょう。多くの人が小さな楽しみを探すのに積極的になり、それが自然なことになったと思います。
――競争社会にも変化の兆しが見えたんでしょうか?
競争とはある意味、1カ所に向かって全員がダッシュすることで生まれるもの。みんな違う目標が見えて、それぞれが望む方向に散り散りになれば、実は競争も成立しないわけですよ。そうして多様な生き方が生まれてくればいいと、個人的に思っています。
――ハワンさんの時代が来ましたね。
そうだといいんですが(笑)
「努力しろ」では通じない時代に
――でも、まだまだ大きな成長の時代を夢見ている人は多いんでしょうかねえ。
そうですね。それは人間の持つ本能に近いと思います。資本主義とは、成長を続けなければ維持できないシステムですから。私たちの父母の世代は仕事ばかりで、自分の小さな楽しみといったことは一つも得られませんでした。でも今の世代は、仕事も一生懸命やるけど、自分が今楽しめることも十分追い求めている。
――収入が倍々ゲームで右肩上がりになる世代じゃない。生い立ちとか、運もありますしね。自分の努力だけではどうにもならないのが人生。
成長が鈍化した時代、そこだけにすべてを捧げていると激しく消耗してしまうのも理由の一つでしょう。昔のような「努力しろ、やればできる」的なものが通じない、厳しい時代が明らかに来たという気がします。
おそらく私の本がとても好評を頂いている理由は、今の時代を生きているたくさんの人の心の中に、おりのように溜まった疲労感があったから。それを本に書いたら「苦しいのは自分だけじゃない」と共感されたのではないかと思います。
縛られるのは嫌、借金もしたくなかった
――それにしても、韓国では若い人たちが仮想通貨や株投資に熱中していると聞きます。競争社会はどんどん熾烈になっているようにも見えます。
一山当てて自分の人生をガラリと変えたいと願うのは、どんな時代も、どの世代も望んできたことです。今は仮想通貨のような変化の時代ですよね? チャンスがありそうな所へ人が群がるのは、人間の自然な行動だと思います。ただ、そこで人生の一発逆転を本当に成し遂げる人はごく少数。自分の思った通りには行かないのが人生ですし。どうか幸運と成功を……と、私が言えるのはこれくらいですね。
――ハワンさんは、投資はされないんですか?
しません。昔はちょっと株をやりました。人生逆転のチャンスがあるのはその通りですが、大部分の人はただ、お金を失うだけ。だから、自分には合わなかった。そう考えてやめました。
――借金もしない主義だとか。
もともと何かに縛られるのがとても嫌な性格で、会社に通勤するのもとても辛かったんです。借金というものは実際、返済義務という「縛られ感」がずっと続くわけで。人間関係においても、他人に借りを作りたくない。さっぱりクールな関係が好きで、お金も、自分がどれだけ苦しくても、借りてまで使いたくない。
でも先日、ついに借金をしました。それも多額の借金を。自分の住む家の問題で。
――あ、本に出ていた話ですね。
そうです。住んでいた賃貸マンションの大家が破産して、マンションが競売にかけられてしまったんです。追い出されないために借金して自分で応札して、家は自分のものになったけど、大家に預けていた保証金7000万ウォン(約700万円)も、半分以上戻ってきませんでした(泣)
――なるほど、あの家は結局、ご自身で購入されたのですね。
これも人生の教訓です。きっと私の行いが悪かったんですよ(嘆息)
「せめて自分くらい、自分自身を好きになるべき」
――今作で具体的に書いていますが、経済的にとても苦しい幼少期を送ってこられたんですね。あえて明らかにした理由は?
書くネタに困ったというのもありますが……。トタン屋根を適当に打ち付けたようないわゆる「貧民街」の出身で、小学校に上がって、同級生がみんなそうじゃないと知ったときはショックでした。20代の頃まで、家が貧しいことを恥ずかしいと思って、ずっと隠していたんです。でもあるとき、酒の勢いで告白したら、一緒にいた人たちも「実は自分も」と共感してくれて、それからは自分から積極的に明かすようになり、自分自身も自由になれた気がします。
――そうした境遇から「他人をうらやまずに自分なりの幸せを見つけよう」という境地に達することができたのは、なかなか大変だったのではないかと思います。
もちろん私も最初からそうだったわけじゃなく、成功したい、お金がほしい、そんな気持ちに満ち満ちていました。いい大学に入れば収入も増えると信じて3浪までしたし、株で一山当てようとしたこともあったけど、何も成し遂げられなかった。
ある瞬間、こりゃしんどいと思ったんです。自分の人生、ずっと不満だらけ。こんな生き方が正しいのか? 自分の人生を憎みながら生きるのがいい人生か? せめて自分くらい、自分自身を好きになるべきなんじゃないか? それから、自分が楽しめる幸せを探して生きようと思うようになりました。そうしたら、他人との比較もあまりしなくなりました。
「友達は少ないほどいい」けど…
――コロナの前までは、人と会うことをそれほど重視していませんでしたが、今は人と会うことの大切さが身にしみます。「友達は少ないほどいい」というハワンさんですが、コロナ前と後で、考えは変わりましたか?
私は前からさほど活発な性格ではなく、人に会うのもそれほど好きな方ではなかったんです。コロナがあって、対人関係で苦痛なこともなく、むしろ人にあまり会わなくていいので、とても気楽です。
ただ、コロナ前まで読者と出会ったり、インタビューを受けたりといった活動をしていいましたが、コロナでできなくなり、結果的に「より一生懸命生きない」という生活になってしまいました。今よりはもう少し一生懸命生きてもいいから、コロナが早く終わってほしいですね。
――「人生には面白みを感じない時期がある」という話がありました。私もコロナのせいか、そんな時期が来たようです。人生の楽しみを取り戻すにはどうすればいいですか?
……私もよく分かりません。実は私も今、吉野さんのように、何をしても面白くない、人生に楽しみを見いだせない時期が来たようです。最近は楽しいこともなく、映画を見ても面白くないし、音楽を聴いても気分が高まらない。
――ハワンさん、本を2冊書いて、ベストセラーになって、燃え尽きたのでは?
分かりません。でも、暑い日があれば寒い日もあり、季節が移り変わっていくように、人の気持ちも変わっていくもの。人間の心がずっと熱いままだったら危険でしょう? 途中で歩む方向を再調整するのは自然なことで、人生に必ず必要なことだと思います。
――これからの計画は?
私はやっぱり、何かを創っているときがいちばん楽しい。「次は何をすれば面白いだろう? どうやって生きていけばいいだろう?」とまじめに自問しながら過ごしています。こういう時期は自然に過ぎ去るものだと分かっているので、急いで抜け出そうとせずに、今の時期に考えられることをしながら過ごしています。
次はまたエッセイか、あるいは漫画かも、ストーリーのある小説かもしれない。次は何を創ろうか、これからもこの楽しい悩みを続ける人生を送れるといいなと思っています。
――とりあえず、コロナが終わったら何をしたいですか?
そうですね。私は旅行があまり好きじゃなかったんですけど、今みたいにどこも行けないと、旅行に行きたくてたまらないです。コロナが終わって旅行に自由に行けるようになったら、日本にも行きたいですね。
――ハワンさんに会いたい人がたくさん待ってますよ。
ハハハ、楽しみですね!
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