「結婚適齢期」なんて必要ない
――尊敬できる友人との2人暮らし。日本でも好評で、書籍サイトのレビューでは「ねたましいほどうらやましい」という表現までありました。
ファン・ソヌ うらやましいという反応と同時に、既婚者たちからは「結婚生活とあまり変わらない」という話もありました。葛藤や配慮、お互いの存在があるからこその安心感や幸福感は、結婚と通じるものがあります。最近は結婚をしない女性のライフスタイルが注目されていますが、それだけではない「2人」の生活という普遍性が、日本でも韓国でも好評を頂けたのかなと思っています。
キム・ハナ 日本で「配偶者の両親に気を遣わなくて良いのがうらやましい」という反応があったと聞きました。女性が配偶者の両親にプレッシャーを感じるのは日韓共通なんだと思いました。
――韓国の女性は20~30代の相当数、若い人ほど「結婚をしない」と決めている人が増えています。
ファン 私たちは決心したというよりは、結婚をしないで過ごすうちに年齢もそれなりに重ねたので、2人とも「結婚だけが生活の安定ではないのではないか。結婚をしなくても広い家で快適に過ごしたい」と思うようになりました。
今の韓国では、特に女性が既存の結婚という制度を拒絶する流れがはっきりしています。強力な家父長制を基盤とした家族制度は、もはや魅力を失ったように思います。でも一方で、人間はずっと一人ではいられませんよね。女性が一人でも、もしくは結婚に代わる家族構成でも楽しく暮らせるように、いろんな制度や支援があればいいと思います。
キム 私たちがこの本で言いたかったのは、「結婚適齢期」なんていうプレッシャーを感じる必要はないということ。それは選択の問題で、結婚は歳を重ねてからでもできるし、必ずしも社会が求める年齢でしなくてもいいというメッセージを伝えたかった。人は漠然とこう考えますよね。「結婚をしないと私は一生独りで暮らすのではないか、老後はすごく寂しいのではないか……」。でも実際は、シングルと結婚の間には数多くの多様な選択肢があるということ。私たちがその中の一つを、楽しい形で投げかけてみたいと思いました。
本の出版以降、韓国では結婚をしない人たちや、同性カップルなど多様な「家族」として暮らす人たちの本が数多く世に出ました。これは社会の認識が変化した前向きなシグナルではないかと思います。
コロナ禍で互いの存在が支えに
――出版後、新型コロナウイルスが拡散しましたが、お2人の暮らしはどうですか?
キム たくさんの変化がありました。この本を出した当初(韓国では2019年出版)、ソヌさんは外に出て働く会社員で、私は家の中で働くフリーランスでしたが、その後、ソヌさんもフリーランスに。一緒に過ごす時間が、コロナで格段に増えました。
「ケンカが増える」という話を聞いていたので、私たちは特に気をつけるようにしました。感染拡大で外食もできなかった時、料理好きのソヌさんが毎日のように「お昼は何にする? 夕食は何を食べたい?」と聞いてくれて、とても美味しい料理を飽きることなく作り続けてくれた。本当に感謝しています。
ファン 一人暮らしの女性、そして私たちのようにフリーで仕事をする女性の場合、家に一人でいる時間が長くなり、肉体的にも精神的にもつらくなる事例を本当にたくさん見てきました。幸い、私たちはいちばん安心できる楽しい相手と一緒にたくさんの時間を過ごすことができて、一緒に映画を見たり音楽を聴いたりして、コロナ禍を耐えるのにお互いの存在が本当に支えになりました。でも外へ出る必要がなくなると、とても良い飲み友達が家にいるので酔っ払いやすく、お互いささいなことで揚げ足を取ってケンカになるなど、試行錯誤もありました(笑)
――とってもうらやましい関係。そんな相手に会うにはどうすればいいでしょうか?同居のパートナーにふさわしいかどうか見定めるには?
ファン 私はハナさんと出会うことで、人生の運を使い果たした気がします(笑)
キム 私も(笑)。私たちはツイッターを通じて長年お互いを見てきたので、どういう価値観を持っているかなど同居前にある程度分かりました。でも「この人とは合う」と思ったのに、引っ越しの日、運び込まれたソヌさんの圧倒的な荷物の量を見て、私とはあまりにも性格が違うことに気づきました。私は近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』がバイブルです。
トラブルも起きやすいですけど、でもそれ以前に、尊敬するところや好きな部分がたくさんある相手なら乗り越えられますよね。ソヌさんがネットで大量注文した荷物が家に積み上がっているのを見たときは、私はすぐにソヌさんが作ったおいしい料理を思い出すことにしています。私が到底まねできない領域だからです。
ファン 実はこのインタビューが始まる30分くらい前まで、また私がお菓子の買いだめをして叱られていました(笑)。私みたいにモノがあふれている方が安心するタイプと、「ときめかないなら全部捨てろ」と思うタイプだと衝突しがちです。
キム 一緒に暮らす相手とのトラブルはどうしても起きますが、一番大事なことは努力する気持ちがあるかどうか。努力してもできない時はあります。でも、さっきソヌさんがすぐ謝ってくれたように、「次から努力するね」と言うだけで気持ちが和らぐ。私たちは快適な生活という共同目標に向かって協力するチームメートと思っていて、そういう人を選ぶのが大事だと思います。
「母さんが昔、望んでいた生き方そのもの」
――こうした2人暮らしを家族も理解してくれていることがとても良いなと思いました。最初から賛成してくれたのですか?
キム 賛成というより、反対しませんでした。実は私たち、(2人の故郷の)釜山からさっき帰ってきたばかりなんです。ソヌさんのお母さんと私のお母さんと、4人でミュージカルを見てきました。お母さんたちは私たちが2人で一緒にいることをとても喜んでいて、友達にも自慢してうらやましがられているそうです。
ファン 私たちが20代の比較的若い時に、友達と家を買って暮らすと言ったら心配したでしょう。でも私は一人暮らしが長く、社会人として働いていた私を、両親が信頼してくれていたこともあった。だから「そう、じゃあやってみなさい」と応援してくれたんだと思います。その結果がとてもよかったので、こうして4人で楽しく過ごせています。
母は私が幼い頃から「女性は能力があれば結婚しなくてもいい」とよく話していました。1950年代の生まれで、女性は家庭に入るのが当たり前という時代を生きてきた人。いろんな才能があるのに、あきらめたものがたくさんあるのでしょう。だから「娘の世代は違う生き方をしてもらいたい」という願いがあるようです。
キム 私たちの本を読んだ母も「あなたたちの生活は、母さんが昔、望んでいた生き方そのものよ」という話をしていました。
ファン 世代によって、本に共感するポイントが違うようですね。トークライブなどで読者の方と会うと、私たちより年上の1950~60年代生まれの女性は「結婚しなくてもいい」ことにかなり開放感を感じているようでした。私たちより若い1980~90年代生まれの女性にとってみると、非婚の人生はあまりにも当たり前で、そんなに驚かないのでしょう。今は不動産バブルで住宅価格の高騰が深刻なので、家を買ったということに爽快感を抱いていると感じました。
女性の生き方への指摘、日本でも共感広がる
――文章がテンポよく引き込まれました。エッセイでは日本の本についても言及されていましたが、お2人に影響を与えた作家はいますか?
ファン ロシア語通訳の米原万里さんのエッセイが好きで、家に全集があります。彼女もネコを飼っていたんですよね。
キム 私の人生に大きな影響を与えた人は近藤麻理恵さん。あと日本の作家で言えば佐野洋子さん。彼女もネコですね。『100万回生きたねこ』ですし、世界観に関心があります。
――韓国では日本の本がベストセラーの常連ですが、日本では最近になって『82年生まれ、キム・ジヨン』を皮切りに韓国文学の人気が高まりました。この現象についてどう思いますか?
ファン この本が書店に並んだ写真を投稿してくれた日本のSNSを見ると、私たちが好きな韓国の本が回りにたくさんありました。本当にたくさんの韓国の本が読まれているのがわかり、ありがたいことだと思いました。特に『82年生まれ、キム・ジヨン』にあれほど大きな反応があったのは、女性の生き方について共感できる指摘が多いからではないでしょうか。
キム・ホンビさんの『女の答えはピッチにある――女子サッカーが私に教えてくれたこと』(白水社)も、日本の女性からの反応がとても良かったと聞きました。家父長制の中で「女の生き方」や、社会が求める「女性らしさ」に窮屈さを感じていた女性たちが、本を通じて違う答えを探し出そうとしているように思います。
――本日のインタビュー、まるでこのエッセイの続編を読んでいるような気分になりました。実際に続編の予定はありますか?
キム 対談とエッセイという形で準備しているのが「女ふたり、働いています」。そして「女ふたり、食べています」や「女ふたり、旅しています」、いつかは「女ふたり、家を建てています」もやりたいと話し合っています。
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