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「沖縄戦の子どもたち」書評 暴力の連鎖の最終地点で散る命

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2021年07月03日
沖縄戦の子どもたち (歴史文化ライブラリー) 著者:川満 彰 出版社:吉川弘文館 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784642059268
発売⽇: 2021/05/19
サイズ: 19cm/230p

「沖縄戦の子どもたち」 [著]川満彰

 1945年3月26日、総兵力18万人の米軍は慶良間諸島に上陸。そこで集団自決が起こる。
 「背中から刺し殺し、子どもは肉が薄いのもので[原文ママ]、むこうがわまで突きとおるのです。女の人はですね、上半身裸にして、オッパイを自分で上げさせて、刺したのです。私は[中略]女の人を後ろから支える役でしたよ」(当時14歳だった男性の証言)。「ノブ先生も、カミソリで自分の子どもたちの首を切りました。傷口があさかったせいか、全員無事でしたが、子どもたちはとても痛がって泣いていました」(当時30歳だった女性の証言)
 これは始まりに過ぎなかった。沖縄戦は最初で最後の住民を巻き込んだ地上戦だった。日本軍は10万人余りの第32軍を創設するも、米軍の圧倒的火力の前に撤退を重ねた。本土の国体を守る時間稼ぎのために「捨て石」となった肉弾戦の島で、現在でいえば中高生の子どもたちも役所や学校の建前を通すため半ば強引に動員され、散っていった。それより若い子どもらも艦砲射撃の餌食になったり、疎開中に船に魚雷を打ち込まれ大海に消えたりした。
 集団自決はなぜ起こったか。投降を恥と考える戦陣訓が背景にあったとよく指摘されるが、本書には次のような分析もある。読谷村の事例だ。在郷軍人が「中国で犯した残虐行為を武勇伝として周囲に伝え」た。それを聞いた女たちが負け戦になるとそうなると思い込む。中国帰りの新兵も、米兵は捕らえた男を八つ裂きにし、女を強姦(ごうかん)して殺す、と住民に言ったが、実はそれは自分が中国大陸で犯したことだった、と。そして暴力の連鎖の最終地点で子どもが死んでいく。
 連鎖は続く。防衛省は、子どもを含む沖縄戦の遺骨が眠る土砂を辺野古埋め立てに用いる可能性を否定しない。沖縄戦は本当に終わったのか。私たちの周りで無数の「沖縄戦」が戦われている最中ではないか。本書を読み終えて暗然と思う。
    ◇
かわみつ・あきら 1960年生まれ。名護市教育委員会市史編さん係に所属。著書に『陸軍中野学校と沖縄戦』。