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自然に出てきたセリフが物語を導く 「ブラザーズ・ブラジャー」 佐原ひかりさん

『ブラザーズ・ブラジャー』。イラストは台湾のSAITEMISSによる

 刺激的な題名の小説『ブラザーズ・ブラジャー』(河出書房新社)が話題だ。1992年生まれの佐原ひかりさんの単行本デビュー作。十代の感情に鋭く分け入りながら、読後感はからっと爽やかだ。

 高校時代、文芸部の部誌で「好き放題に」小説を書いていた。大学卒業後に再び書き始め、2017年にコバルト短編小説新人賞を受賞。三浦しをんさんらの選評に「自分の作品に向き合ってくれる人がいる」と手応えを得た。

 氷室冴子青春文学賞大賞を受けた「きみのゆくえに愛を手を」を改題し続編を加えたのが本作だ。主人公ちぐさは高校1年。父が再婚して弟ができた。弟の晴彦はブラジャーの美しさを愛していた。その取り合わせは、物わかりのいい人であろうとするちぐさを様々な形で揺さぶる。

 佐原さんは言う。「『多様性』という言葉が浸透し始めていますが、それに対してどんなスタンスをとるのか、過渡期なのだと思います。多様性を『認める』とか『受け入れる』と言うのは一方的で、歪みが生じがち。『対等性』をもっと意識したい」

 ぶっきらぼうに言葉をぶつけ合いながら距離を詰めていくちぐさと晴彦。表紙のビジュアルも好評で、小説好きの間で晴彦ファンが続出中だ。

 「セリフは、考え込んで打ったことはない。自然に出てくるものを打つのが楽しくて、出てきたセリフから物語が進んでいく感じ。ラストの終わり方も、二人にしゃべってもらって決めました」

 佐原さんは現在、会社勤めをしながら次作を構想中だ。「必ずしも『成長』でなくていいですが、人が変化する瞬間を、すごく書きたいです」=朝日新聞2021年7月31日掲載