1. HOME
  2. 書評
  3. 『新型コロナ「正しく恐れる」Ⅱ 問題の本質は何か』書評 責任回避し目先追う社会の病理

『新型コロナ「正しく恐れる」Ⅱ 問題の本質は何か』書評 責任回避し目先追う社会の病理

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2021年08月07日
新型コロナ「正しく恐れる」 2 問題の本質は何か 著者:西村 秀一 出版社:藤原書店 ジャンル:健康・家庭医学

ISBN: 9784865783162
発売⽇: 2021/06/28
サイズ: 19cm/244p

『新型コロナ「正しく恐れる」Ⅱ 問題の本質は何か』 [著]西村秀一 [編]井上亮

 自粛警察やマスク警察を励行する人もいれば、ぎゅう詰めの居酒屋でどんちゃん騒ぎする人もいる。そんな両極端な人に特に薦めたい。文化記者の私には、西村秀一さんのコロナ対策の正否を判定する能力はないが、本書を読めば、社会全体が奇妙な方向へ走り出していることが分かる。
 西村さんは、行政やメディア、専門家が喧伝(けんでん)する対策の多くについて、意味がないと主張する。マスク会食は「百年後の人たちに絶対笑われますよ」。アクリル板やフェースシールドは「アリバイ的」「免罪符のよう」と一刀両断にする。
 スーパーコンピューターの富岳が飛沫(ひまつ)の拡散範囲を計算していたが、「隣の席からの飛沫がいちばん近くて多いという、わざわざお金をかけてコンピューターを使わなくても常識でわかることを見せて」いる。思わずふき出してしまった。
 なぜそんなことになるのか。西村さんは、行政もメディアも専門家も、間違えた時の責任を取りたくないからだと見立てる。危機をあおることにばかり熱心。「ここまでは大丈夫」と自信を持って言える人間が日本にはいない。そして国産ワクチンが作れないのは大学が目先の成果を重視し、研究者の裾野がやせ細ったせいだ、と踏み込む。つまり、社会の病理がコロナで顕在化したというわけだ。
 西村さんは「ここまでは大丈夫」と言ってくれる。しかし「コロナ恐るるに足らず」とは言わない。それどころか「インフルエンザより格段に怖い」と釘を刺す。変異株については「分からない」と正直に言う。
 題名がいい。「正しく恐れよ」でなく「正しく恐れる」。行政やメディアをうのみにせず、しかし西村さんにお墨付きをもらうのも違う、との含意を私は読み取った。状況に応じて自ら判断することが肝要だ。とはいえ、今後も迷うことだらけだろう。ただ、本書を読んで、これだけは確信出来るようになった。極端なところに正解はない、と。
    ◇
にしむら・ひでかず 国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長▽いのうえ・まこと 日経新聞編集委員。