書店店主の目線から今という時代が浮かび上がるのが辻山良雄さんの『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(幻冬舎・1760円)だ。東京・荻窪の書店で辻山さんは、店を訪れる人の姿を通して世の中について考える。
近年は便利で理解しやすい本の需要が高まり、書店で知らない本に触ろうとしない人が増えた。それは世を覆う「貧しさ」の表れだ。未知の本が世界を豊かにするのだから。一方で、コロナ禍では多くの人から本を求められ、本が「生きるために必要とされている手ごたえがあった」。
ウェブの連載を書籍化した。編集者の相馬裕子さんが「定点観測のように同じ場所にいるからこそ見えるものがあるのではないか」と考え、連載を持ちかけた。「辻山さんの言葉は、体を動かして働くことによって生み出される。それゆえ共感でき、心にしみる」と相馬さんは話す。(川村貴大)=朝日新聞2021年8月21日掲載