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こがらし輪音さんが「ウォーターボーイズ」に学んだギャグの大切さ

 実のところ映画やドラマにはさほど多く触れてこない人生でした。「創作者のくせにあの大作も観てないのか」と詰られると返す言葉もありませんし、「これからたくさんの名作に触れられる君が羨ましい」とフォローされると気を遣わせてしまったようで恐縮してしまいます。今はサブスクで古今東西の映画やドラマをいつでも見られるのでいい時代ですよね。観てない言い訳もできなくなってしまいましたね。

 テレビが家に一台しかなかったこともあり、子供時代の私の趣味は主に自室で完結する本やゲームで、ドラマや映画は家族が見ている番組を一緒に見るくらいでした。その中で特に好きだったのは「ウォーターボーイズ」シリーズです。当時10歳そこそこの小僧だった私は、実写映画やドラマについて「何か大人が小難しいこと言っとるな」くらいの認識でしかなかったのですが、「ウォーターボーイズ」は映画からドラマ3作目まで録画して何度も視聴した記憶があります。

 今思えば作品のメインターゲット層は明らかに若年女性であり、姉も観始めたきっかけはイケメン俳優だったと思うのですが(違ったらごめん)、そのターゲットから外れた私でも毎週放映を楽しみにしていました。「仲間と練習したシンクロを観客に披露する」という明確な目的や、そこに向かう上での障害と努力はもちろん、当時の私にとって一番魅力的だったのはギャグシーンでした。芸能界に疎く世間のこともろくすっぽ知らない小僧にも「ウォーターボーイズ」のギャグは非常にツボに嵌まり、それがファンになった最大の要因になったと記憶しています。アフロ燃やしながらプールに飛び込むシーンとか考えた人天才すぎませんか。

 振り返ってみると、私が小説中にやたらとギャグシーンを入れたがる原点は「ウォーターボーイズ」なんじゃないかと思います。扱う題材やキャストに興味が無くとも、面白いギャグはジャンルの垣根を越えて受け手を笑わせてくれます。そこを入口としてストーリーそのものにも興味を持ってもらえるようになれば――というのは人によっては邪道と思われるかもしれませんが。身も蓋もない話をすると私自身、観るのも読むのも書くのもあまり堅苦しいのは好きじゃないんです。

 子供というのは単純なもので、夏になれば毎年「ウォーターボーイズ」が放映されるものだと信じて疑っていませんでしたが、2005年の3作目(映画を含めると4作目)を最後にシリーズは終了してしまいます。しかし「ウォーターボーイズ」がきっかけとなり、その後の私はドラマや映画を片っ端から見漁るように……なりませんでした。すっかり映像作品から離れてポケモンに没頭する生活に逆戻りです。そういうとこだぞ小僧。

 「名作はいつ見ても名作」というのはその通りですが、それはそれとして「ひときわ自分に刺さる時代」というのは厳然として存在すると思います。他の方が幼少期に多大な影響を受けた傑作が、今の自分に刺さるとは限らないですし、私自身も今「ウォーターボーイズ」を見てもあの頃のような感慨に浸ることは出来ないと思います。だからこそ純粋な気持ちでエンタメを享受できていた時代に、心から「面白い」「続きが楽しみ」と思える作品に出会えたことはすごく幸せなことですし、私も次の世代にとってのそういう作品を作ることが出来れば、創作者として望外の喜びですね。