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メジャーリーグ 米社会とは何か、野球が反映 ノンフィクション作家・後藤正治

リトルリーグの子どもたちが見守る中、ウォーミングアップをするエンゼルスの大谷翔平=22日、米ペンシルベニア州ウィリアムズポート、AP

 連日のように大谷翔平の大活躍が伝えられる。二刀流はメジャーリーグでも新しい歴史を刻んでいる。少し前、イチローがそうだった。MVP、二度の首位打者、三千本安打……。『イチロー・インタビューズ』は、メジャー十九年に及ぶシーズンの、節目節目に行われたインタビューの全集である。

 寡黙で孤高のプレーヤーというイメージが強かったが、なかなかいい言葉を吐く人じゃないかと思いつつ読んだ。聞き手はスポーツライターの石田雄太。

 言葉が人生の普遍に及んでいるように思えるのは、マリナーズを出され、球団を移り歩いた“晩年”である。

 「いつしか自分の失敗と向き合うようになった。……そのとき、ようやく自分はプロ野球選手になったんだと実感したような気がします」

 「虚(むな)しさなんて、しょっちゅう感じています。でもそれこそが、成熟へ向けての道ではないですか」

 「どんな数字や記録があっても、それが自分だけのものであったとしたら、誰かが喜んでくれなかったとしたら、何も残らないと思います」

 イチローにとって野球は「全エネルギーを注げるもの」であり続けた。結果として偉業が残っただけなのかもしれない。

データと直感と

 『アストロボール』は、メジャーのいまを伝える書である。著者は「スポーツ・イラストレイテッド」誌のベテラン記者。

 下位に低迷するアストロズのGM(ゼネラルマネジャー)に、カージナルスのスカウト部長で、元は化学畑のエンジニアが就任した。補佐する「意思決定科学部長」には元NASA(米航空宇宙局)のロケット工学者。配下に「オタクの洞窟」と呼ばれるデータ分析班がついた。

 すでにデータ野球はお馴染(なじ)みだが、より細かく球種ごとの打率などが示され、スカウト、守備シフト、スイングの改善、投球術などに生かされていく。

 一方で、野球はいつも未知なるものをはらむ。二〇一二年のドラフト、アストロズは指名一位で、プエルトリコの高校生内野手を指名した。データにプラスして、スカウトの「直感」があった。五年後、高校生は、ワールドシリーズの覇者となったアストロズの主力となっていた。データと直感。チームづくりの両翼を成すものなのだろう。

怪物投手の秘史

 『史上最高の投手はだれか』は、黒人選手がメジャーから締め出されていた時代、「ニグロ・リーグ」で全盛期を送った伝説の投手、サチェル・ペイジを描いている。著者は日米野球史の大家、佐山和夫。

 メジャーで“火の玉投手”と呼ばれたボブ・フェラーは、ペイジのチームと対戦したが、「自分の速球がまるでチェンジアップに見えるほどペイジの球は速かった」と語っている。

 四十二歳でようやくメジャー入りし、五十代になっても投げたが、正確な生涯記録はわからないとある。後年、年金支給や野球殿堂入りに際して、メジャーでの年数が少ないとして見送られた時期があった。怪物投手は早く生まれ過ぎたのか? ペイジはこう答えている。

 「野球に関して、私がにがい思いをしたことは、ただの一度もない。……白人たちと同様、われわれも、どこへでも行って、プレイが出来た。三万人から六万人もの観衆を集めて、その前でゲームをして来たのだ。それで満足しない男がいるだろうか」

 “もうひとつのメジャー物語”ともなっている。

 他にもメジャーリーグを舞台にした作品は何冊か浮かぶ。記憶に残るのは、野球物語として面白いと同時に、〈アメリカとは何か〉、という問いへの答えを内包しているように思える書である。=朝日新聞2021年8月28日掲載