ISBN: 9784908672491
発売⽇: 2021/06/30
サイズ: 20cm/271p
ISBN: 9784755430077
発売⽇:
サイズ: 21cm/347p
『戦後沖縄と復興の「異音」』 [著]謝花直美/「沖縄人民党事件」 [著]森川恭剛
戦後も76年が経ち、戦争体験の継承は難しさを増している。だがCGやアニメで真実味を演出しても、戦時期だけを切り取るならば別世界のままだ。悲惨な戦時と、戦後復興の成功物語とを、別物と捉える前提は揺るがない。そこには、戦争と復興をつなぐ被占領の現実が欠けている。戦争・占領・復興は、実際は地続きの体験だった。とりわけ沖縄の「戦後」は、三つが密接に重なり合う点で、私たちの歴史意識の死角を撃つ。
『戦後沖縄と復興の「異音」』は地上戦のさなかに収容所で始まった民衆生活の行方をたどる。軍港建設に故郷を奪われ、軍作業の都合で幾度も移動を強いられた那覇の人々。米軍服の仕立て直しを、ミシン一つを元手に始め、市場(いちば)を切り盛りした女性たち。生存を賭けて独自の「生活圏」を紡ぐ営みが、詳しく掘り起こされる。
ただし、どんな復興の夢よりも、米軍統治の安定が優先した。矛盾に抗(あらが)う声は「異音」と見なされ、「不衛生」や「アカ」の烙印(らくいん)によって排除される。取り残された弱者は、救済すべき「社会問題」へと押し込められた。社会を分断して、「米琉親善」への自発的な「協力者」を生み出す仕掛けだ。
だが抵抗の意志は分断を潜(くぐ)り抜け、1950年代半ばに「島ぐるみ闘争」へ結実する。その背後に、生活のために拳は挙げられなくとも、「気持ちまでは取られない」と「ぎりぎりの地点で自律を選び続けようとした人々」がいた。
新聞ならば庶民の戦後秘話で終わる生活史の断片。本書はそれを、占領の構造的な制約と結びつけ、民衆を暮らしの中から拘束する支配の実態としてつかみ出す。
米軍にとり、最も不都合な「異音」は日本への復帰運動だった。54年、米軍は運動を主導する沖縄人民党を弾圧し、軍事法廷で裁く。その公判記録に解説を付して訳した『沖縄人民党事件』が、「植民地裁判」の内幕を明かす。
「琉球人を惑わす」者を匿(かくま)った罪で、人民党指導者の瀬長亀次郎たちが断罪された。だが調書は検察の「でっち上げ」で、証人の自白は二転三転する。米軍将校の判事たちは、被告の発言を執拗(しつよう)に制止するばかり。抗議のポスターを準備しただけで、支援者まで「騒乱惹起(じゃっき)」の共謀罪で捕まった。
瀬長には、この茶番劇が戦前の治安維持法と重なって見えた。まるで「同じ方法で裁かれようとしている」からだ。その「方法」は、日米地位協定に基づく刑事特別法を追認する今の司法にも通じる。
2冊を通じて、本土と質を異にする沖縄の「戦後」の過酷さが、改めて際立つ。と同時に、「日米親善」の影で黙らされた数多くの「異音」について、本土の側が自らを問い直す契機も与えてくれる。
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じゃはな・なおみ 1962年生まれ。沖縄大特別研究員、沖縄タイムス記者。著書に『戦場の童』▽もりかわ・やすたか 1966年生まれ。琉球大教授(刑法、ハンセン病差別問題)。著書に『性暴力の罪の行為と類型』。