「ブックセラーズ・ダイアリー」書評 本と人で生まれる小さなドラマ
ISBN: 9784560098554
発売⽇: 2021/07/30
サイズ: 19cm/335p
「ブックセラーズ・ダイアリー」 [編]ショーン・バイセル
衝動買いにもほどがある。なんせ本を買いに行ったはずが、本屋を買ってしまったというのだから。
時は2000年、場所はスコットランドのウィグタウン。当時30歳のショーンは地元の老舗古書店で雑談をしているうちに、なぜか店ごと買い取ることに。それがいまや10万冊もの在庫を擁するスコットランド最大の古書店である。経済が低迷していたウィグタウンも本の町として生まれ変わり、ブックフェスティバルには世界中から観光客が集まるようになった。
本書はそんなショーンの2014年の日記だ。どんな客が来たか、何が売れたか、どこに仕入れに行ったか、従業員が何をしたかなどの営業記録だが、これがとにかく面白い。
値段に文句を言う客、古書の知識でマウントをとって来る客、探している本が「ある」と言われると不機嫌になる客。厄介な客とやり合い、自由過ぎる従業員と戦い、古い店舗の雨漏りに駆け回る。
ネットとも無縁ではいられない。通販はアマゾンを介さざるを得ないし電子書籍というライバルもいる。
そんな苦労や客への文句を、ショーンは皮肉たっぷりのユーモアで描き出す。観察が鋭く言葉のひとつひとつがウィットに富んでいるので、辛辣(しんらつ)なのにとても読み心地がいいのだ。これは翻訳の力も大きい。ショットガンで撃ち抜いた古い電子書籍端末を店に飾るくだりには笑ってしまった。
その一方で、5歳くらいの男の子がママの誕生日プレゼントの相談に来る。10代の少年が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を買っていく。亡き父の署名入りの本を見つけて喜ぶ老人がいる。故人が遺(のこ)した本を引き取りに行き、蔵書にその人の生きた軌跡を見る。
電子書籍やネット通販は便利だが「本のある場所」でしか味わえない息吹は確実に存在する。本と人が交差することで生まれる小さなドラマの詰め合わせ。ぜひ続きも読んでみたい。
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Shaun Bythell 1970年、英国生まれ。地元のウィグタウンでブックフェスティバルを主催。