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【記者推し】鈴木比佐雄ほか編『地球の生物多様性詩歌集』 生きものの慟哭、詩歌で光を

『地球の生物多様性詩歌集』=コールサック社提供

 この1年半余り、私たちはコロナ禍のなかで、現在の生き方や自然との関係性について再考を余儀なくされた。9月にコールサック社から刊行された『地球の生物多様性詩歌集』(鈴木比佐雄ほか編)は、古今の詩情を通じて現代が直面する問いを考えようとする真摯(しんし)なアンソロジーである。

 同書は主に近現代の作者234人による、生物多様性をテーマにした詩・短歌・俳句を収める。公募で加わった書き手から宮沢賢治や草野心平、金子兜太といった著名な文人まで、顔ぶれは多彩だ。

 《おっかさん 目がにごっているよ/あぶくを吐いてよ あぶくを吐いてよ》(ドリアン助川「汚染蟹(よごれがに)」から)

 《ジュゴンなど殺して沈めて辺野古の海の本土防衛海底ブロック》(玉城洋子「儒艮(ザン)といふ人魚の歌」から)

 収録作の数々が、踏みにじられる自然を前にした生きものの慟哭(どうこく)や、生態系という円環から離れゆく人間の孤独を浮き彫りにする。

 これまでも同社は原爆や空襲、あるいは多文化共生や日本の地名など、種々の題による作品集を世に問うている。編者で同社代表の鈴木さんは「『万葉集』のようなものを作りたい」と思いを語る。『万葉集』に息づく民衆の雑歌のように、詩歌の力でこの世の様々な事象に思考の光を当てたいと。

 今後も新たなアンソロジーを刊行予定という。現代の『万葉集』の歩みに期待したい。(山本悠理)=朝日新聞2021年10月6日掲載