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織守きょうやさんの世界を広げたロックバンド・THE YELLOW MONKEY

THE YELLOW MONKEYの「GOLDEN YEARS Singles 1996-2001」

 子どもの頃から、音楽や歌は好きだったが、特定のアーティストのファンになる、ということはなかった。

 音楽はあくまで作品単位で愛していて、いいなと思った曲があっても、誰が作っているか、誰が歌っているかは重視しなかった、というか、考えなかった。そもそもほとんどのアーティストの顔を知らなかった。

 そんな私が、高校生の頃に出会ったのがTHE YELLOW MONKEYというバンドだった。

 海外に住んでいたころ、日本料理店か日本食を提供するカラオケ店で、「JAM」(1996年)のミュージッククリップを観て、何だこれはと衝撃を受けたのがきっかけだったと思う。

 しっとりとメランコリックなメロディ、言葉で殴りつけてくるようなメッセージ性の強い歌詞、憂いをおびた、切実な歌声。ミュージッククリップの中で、赤い涙を流しながら歌うボーカルの吉井和哉氏の顔も、曲と一緒に心に焼きついた。

 同時期に、彼らはアニメのエンディング曲を歌っていて、その曲もかっこよかった。そちらは「JAM」とは全然イメージの違う曲だったので、「同じバンドか!」と気づいて驚いた。

 グループ名を知ると、私はすぐに、彼らのCDを集め始めた。

 音とメロディにはイントロから引き込まれ、曲にも詞にも物語性が、世界観がある。私が気づかなかっただけで、誰のどんな曲にもそれはあるのかもしれないが、イエモンの曲から読み取れるその物語が、私にはとても魅力的に感じられた(メンバーのアドリブで録音したと後から知ったインストゥルメンタル曲「薬局へ行こうよ」を聴いたときも「世界観がある!」と思ったので、要は私が勝手に物語を感じていただけなのだろうが、音楽への理解なんてそういうものだろうと思う)。

 巷に溢れる(と当時の私は思っていた)、さあ共感しろと言わんばかりの等身大のラブソングとは違うと思った(皆が共感する等身大のラブソングの何が悪いのかという話だが、何せ高校生の頃なので大目に見てほしい)。

 意味なんてわからなくてもいいし、あってもなくてもいい。ただかっこいい。

 共感する歌詞ももちろんあったし、そうでないものもたくさんあった。ロックンローラーの悲哀とか、ポップでふしだらで思い切り品のない恋愛とか、そんな経験をしたこともしたいと思ったこともなかったが、フィクションとして楽しんだ。

 新曲が出るたびに買い、アルバムを集めるようなことをしたのは、おそらくイエモンが初めてだ。それ以来、気に入った曲のCDやアーティストのミュージッククリップを買い集めるのが、私にとって普通になったので、イエモンが世界を広げてくれたといえる。

 おすすめの曲は? と訊かれると困ってしまう。メッセージ性の強い曲もいいが、全くメッセージ性のない曲も楽しくて大好きだ。「HOTEL宇宙船」とか。「審美眼ブギ」とか「LOVE LOVE SHOW」なんて、もはや悪ノリではないかと思うが、そこがいい。知名度の高い「バラ色の日々」、美しいバラード「BRILLIANT WORLD」、解散前の最後のシングル「プライマル。」も大好きだ。名曲がありすぎて選ぶのは難しい。

 しかし、その中からあえて一曲おすすめするとしたら、モット・ザ・フープルのトリビュートアルバムでイエモンがカバーした一曲で、二枚目のベストアルバムに収録されている「Honaloochie Boogie」を挙げる。

 イチオシがカバー曲かよと言われそうだが、これが、ただのカバーとはいえないほどイエモンのものになっているのだ。成功する前のロックンローラーのダメダメな日常と大志を歌った歌で、吉井和哉が、イアン・ハンターによる元の歌詞を自分流に解釈して独自の日本語詞で歌っているのだが、その言葉選びがこれぞ吉井和哉という感じでぐっとくる。サビに入る直前、原曲で「I just wanna dance to」となっているところを「年がら年中」「コードは勉強中」とするセンス。サウンドも完全にイエモンの音だ。私がロックンローラーだったことなど人生で一度もないのに、「青春は長いな」「今はダメでもいつか神様」という歌詞を聴くたびに「これは自分の曲だ」と思ってしまう。

 原曲も聴いたし、こちらもとてもいいのだが、やはり、イエモン版は、ああイエモンだなあと感じる。是非原曲と聴き比べてみてほしい一曲だ。