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和田靜香さん×平河エリさん対談 「政治本」の著者が語る、身近なことから政治に関心を持つには?

和田静香さん(左)と平河エリさん=吉野太一郎撮影

「何が分からないか分からなかった」

——まずはお二人がそれぞれ、今回の本を書いた経緯を教えてください。

平河エリ 2015年ごろから政治ライターとして、国会と政治についてブログに書きはじめ、ウェブ媒体に寄稿を続けるうちに本を書く機会をいただきました。政治の本は選挙や時事問題を扱うことが多く、「国会」にフォーカスしたものはあまりありません。

 国会は何かを実現するというより、チェックしたり止めたりする機関としての役割が大きいのですが、なかなか知られていないと感じていたので、わかりやすく読める本を作ろうと思いました。

和田靜香 私は相撲・音楽ライターで、政治はまったく専門ではありません。ただ、ずっと興味はあって、東日本大震災後には原発反対のデモに参加したり、投票を呼びかける選挙ステッカーを作ったりしていました。

 その中で取材を受けることもあって、ある時「今回の争点は?」と聞かれたのですが、そもそも「争点ってなに?」となったことも(笑)。選挙に行こうと言いながら、政治についてまったくわかっていなかったんです。

 活動はどれも途中でしりすぼみになってしまって、その間に仕事も減り、生活のためにコンビニやパン屋などでアルバイトをするようになって。でも、それもコロナでできなくなりました。これからどうしようと感じていた時にたまたま見たのが、立憲民主党の小川淳也衆院議員を追ったドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」。

 何度失敗しても這い上がって、政治への情熱を見せる姿に胸を打たれて、立て続けに2回見ました。「この人にもっと話を聞いてみたい」と思って、手紙を送ったのがはじまりです。本にも書いていますが、最初は本当に政治の知識がなくて、何が分からないのかすら分からない状態。それをそのまま小川さんにぶつけるところからスタートして、対話を重ねて本ができていきました。

議会政治の「基本のき」解説

——お二人はお互いの本をどう読みましたか?

平河 和田さん自身の人生録であり、政治についてわかりやすく書かれていて、シンプルにとても面白かったです。「何が分からないのか分からない」という人は有権者にも多いと思いますが、そこから書かれた本はなかなかないと思います。

 和田さんの疑問に応える小川さんとの熱量のぶつかり合いもすごい。政治家の話を聞いてまとめるだけじゃなくて、和田さんが気になったところを深掘りして聞いているので、二人の意見が食い違うところも引き込まれました。

和田 ありがとうございます。平河さんの本は「基本のき」が分かりやすく書いてあって、赤線を引きまくりながら読みました。国語辞典の横に置いて、新聞やニュースを見て分からない時に読みたいです。

 「総理大臣と国会、どちらが偉い?」とか、「国会における野党の役割とは?」とか、テーマも興味深いものばかり。印象に残る一文も多くて、『国会答弁では「答えは差し控える」「記憶は定かではない」など、いわゆる「逃げ」が横行し、議論する前提そのものが壊れています。そのような「禁じ手」をどう判断するのかは、最終的には皆さん一人ひとりの判断です』という文章も、ずしんと来ました。

——「政治家の言葉」はキーワードの一つになりそうです。平河さんの本では答弁の禁じ手や「キャッチコピー偏重」な政策などを分析しているほか、政治家の発言も多数引用しています。和田さんの本も小川さんの率直な語りが印象に残ります。

平河 特に昔の政治家はスケールが大きく、グランドデザインを描くような言葉が多くありました。ただ、それは経済成長の真っただなかだったからで、今は景気もなんでも下り坂。時代が違えば言葉の響き方も変わります。今は現実を受け止めないといけないけど、そういう言葉を政治家は話したがらないので、空虚な言葉になることがあるのかなと思います。

和田 小川さんは隠さず言うタイプですけど、特に選挙前だとなかなか他の人は言わないですね。

平河 政治家が人口問題を真っ向から論じている本ってなかなかないんですよ。和田さんの本では、日本の逃げられない現実について小川さんの口を借りて書いていて、明るい話題はないけれど軽妙な筆致で暗くならずに読める。これは発明だなと思いました。

「自分にとってのおおごと」に投票すれば

——今回の選挙で注目している点を教えてください。

和田 私は住宅政策です。これまで不動産屋でどれだけ嫌な目にあってきたか! 単身でフリーランスのおばさんって、めっちゃ値踏みされるんですよ。各党が政策を打ち出していますが、低所得世帯への住宅手当やひとり暮らしの学生への家賃補助制度などを掲げる立憲民主党が特に手厚いです。平河さんの注目は?

平河 ジェンダー、気候変動がどれだけ有権者の間で盛り上がるかは注目しています。テレビや新聞で大きく取り上げられるのか、取り上げられたとしてそれを争点に選ぶ人がどれだけいるのか、気にして見ていますね。選択的夫婦別姓にみんなが興味を持つのか、経済対策、安保、消費税などに注目が集まるのか、それはメディアの争点設定の影響も大きいですし、我々ひとりひとりがやらないといけないことだと感じています。

 経済政策も色々と言われていますが、判断が難しいのが正直なところ。大幅な経済成長が難しい中で、成長戦略に本当に実効性があるのか疑問です。メディアの論点としては、たとえば選択的夫婦別姓などのように肯定と否定がはっきりすることをやってほしいと思いますね。

和田 自民党の公約からは、選択的夫婦別姓の検討も削除されましたが……。あと、最低賃金も気になっています。立憲や共産党などは時給1500円、公明党も全国一律1000円以上と掲げています。自民党は具体的な数字の言及はありませんね。今年のノーベル経済学賞の受賞者は最低賃金と雇用の関係を研究していたし、もっとクローズアップして、ぜひ上げてほしい。

平河 これは与党と野党の関係でもあって、与党は現状維持、野党は方向性を持って変えることがテーマになることが多いんです。いわば与党は争点を潰すこと、野党は争点を作ることが目的。その争点潰しに有権者が共感するのか、争点に共感するかで全然違う結果になるでしょう。

 投票する時、「こんなことで決めていいのかな」と迷う人もいるかもしれません。でも、深く色々なことを考えすぎなくていいと思います。問題の大きさは人によって違うので、自分にとっておおごとならそれでいい。

和田 私が住宅政策が大事だと思ったらそれを重視して投票する。そういうことですよね。

ゆとりがないと、政治に目を向けられない

——政治と生活の接点の見つけ方についてもうかがいたいです。そもそも、平河さんが政治に関心を持ったきっかけは?

平河 議員会館でインターンをしていたのがきっかけです。

和田 どうしてそこでインターンを?

平河 大学受験の社会科目で政治経済を選択したのが最初です。世界史選択だったのですが、点数が伸びなくて(笑)。12月に「政治経済ならなんとかなるかも」と思って切り替え、国会中継を聴きながら受験勉強をしたのがきっかけです。大学入学が政権交代のあった2009年で、在学中に東日本大震災があったことも大きいと思います。政治に興味を持たざるを得ない時期だったなと。

和田 エポックメイキングなできごとがあると、関心を持つきっかけになりますよね。コロナもそうですし。

平河 そうですね。ただ、和田さんも書いていましたが、政治に興味を持つって生活に余裕がないと難しい。今の若者は僕の時よりも厳しい環境に置かれているし、社会人でも朝から夜遅くまで働いていれば、政治に興味を持つどころか、本一冊読むのも難しいでしょう。

和田 小川さんが「ゆとりある社会じゃないと民主主義は機能しない」と言っていて、本当にそうだなと思いました。私はゆとりがなさすぎて本を書きましたが(笑)。

平河 それがきっと多くの人の共感を呼んでいるんですよね。反響はいかがですか?

和田 ものすごい反響で、「泣いた」という感想をよく聞きます。みんなどうして泣くのかわからなかったのですが、ある人が「これを読んで自分はこんなに不安だったんだって気づいたら、わーわー泣いた」とつぶやいているのを見て、そういうことだったのかと思いました。自分が不安だってことも考える余裕がない人が、この本を読んで「同じだ」と気づく。そんなふうに読まれているんだなと。

 今は本当にみんなが苦しいんだなと実感しました。私も苦しかったけど、もっと苦しい人がいっぱいいて、どうにもならないくらい渦巻いている。

平河 一人一人が分断されているんですよね。同じような境遇の人でも、なかなか連帯できない。

和田 苦しみを共有できなくて、みんなひとりで縮こまって膝を抱えて苦しんでいる。それってすごく悲しいですね。

まずは自分の不安を書き出してみる

——和田さんは「政治の何が分からないか分からない」状態から、どう一歩を踏み出したのでしょう?

和田 とにかく、不安に思っていることをA4用紙に書き出しました。家が借りられない、税金が高い、健康保険料を滞納している、早く死んだほうがいい気がする……そんなことです。だーっと書いたらそれだけでけっこうすっきりしましたね。

 その時はノープランで小川さんに会いに行った直後で、小川さんが自身の政策をまとめた本を読み込んでいたところでした。最初はちんぷんかんぷんで3秒で眠くなっていたのですが、不安を書き出してから読むと少し理解できるようになりました。だから「政治」って大きく捉えると分からないけど、「最低賃金上げてほしい」みたいなことから考えると関心が持てるのかもしれない。

平河 不安を書き出したり、思いついた時にメモしておくといいかもしれないですね。

和田 そう。で、それを捨てずに持っておいて、何かのたびに見る。そうしていると、そのうちにどれかが政治家の言葉とリンクするかもしれない。自分が最低賃金で働いていて「これじゃ暮らせない」と思っている時に「1500円にします!」という政治家がいたら応援しようと思えるじゃないですか。そういうことが大事なんですよね。

平河 縦軸で成功している人と比べるんじゃなくて、横軸で見てみるのは大切ですよね。日本は自己責任の風潮が強いですが、個人の努力には限界があります。同じ仕事をしていても国や地域が違えば給料はまったく変わりますが、それは個人の責任ではありません。男女で給料が違うのもそうです。見方の軸を増やすと、政治が解決すべき問題もあると気づいて、自己責任の苦しさが少し楽になるかもしれない。

和田 一人でつらい思いをしている人のところにも政治っていうパイプがあって、それを手繰るのが大事。栄養の管が政治に繋がっているんだよって、気づいてほしいですね。