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幸せなデジタル社会を作るための処方箋とは 堤未果さん「デジタル・ファシズム」

「デジタル・ファシズム」の著者・堤未果さん

 国際ジャーナリストの堤未果さんが綿密な取材と海外のデジタル事情などをもとに書いた『デジタル・ファシズム  日本の資産と主権が消える』について、大学生の大木咲貴子さん、田中唯翔さん(ともに、淡路エリアマネジメント学生会員)が堤さんに10の質問を投げかけました。一部の人の利益のためでなく、幸せなデジタル社会を作るための処方箋とは――。トークの一部を抜粋して紹介します。

トークの動画はこちら

大木:新刊『デジタル・ファシズム  日本の資産と主権が消える』についてご紹介いただけますか。

堤:この本は日本でデジタル庁が発足する1日前に出しました。世界的な新型コロナウイルスのパンデミック下で、リモートやオンライン教育など一気にデジタル化が進みましたよね。でもこうした非常時には私達国民は頭が働きません。デジタルのような新しいテクノロジーなら尚更、「専門家に任せよう」と丸投げになってしまう。本当は、デジタル化のように社会を根底から大きく変えてしまうような技術こそ、当事者である私たちが設計段階でしっかり関わらなければならないのです。デジタル化の素晴らしいところ、気をつけないといけない部分、これだけは落としてはいけないことなど、スピードが速いものなので、できるだけ早く全国民に伝えようと、緊急レポート的に書きました。

田中:この機会にこの本を読むことができてとてもよかったです。コンピューターサイエンスを礼賛し、明るみに出ている社会の分断に対して目を背けがちな時代に、待ったをかける言説は国内では見かけることが少ないと感じています。そんななか、テクノロジーの危険性に科学的根拠をもって警鐘を鳴らしている一冊だと思いました。

大木:私は大学で憲法ゼミに所属し、国の政策の問題点や修正すべき点について、憲法上の問題を交え議論しています。現在の政府の動向は、公共上の利益を軽視しているのではないかという問題意識を持つようになりました。著書にもありましたが、近現代史に学び、公共の精神を考えることの重要性を感じました。

日本の国際競争力が低下した理由

田中:最初の質問ですが、日本のテック企業はなぜ力が弱く、GAFAに負けてしまうのでしょうか。国際競争力の低さは何が原因なのか教えていただけますか。

堤:田中さんはどうしてGAFAがこんなに強くて日本が弱いのだと思いますか。

田中:難しいですね……。GAFAが強い原因は、アメリカに「出る杭を打たない」文化があるといいますか、人口の多さもあるかもしれませんが、コンピューターの力で世界を変えていこう、良くしていこうという人が過去40年多く存在して、その結果大きな成長を遂げたのではないかと思います。僕も今アップルのノートパソコンを選んで使っています。

大木:昔は日本企業が強かった時代があったと思うのですが、今こうなっているのは、日本の企業体制に少し問題があったのかなと思いますね。自由な発想を伸ばしていくのではなく、上が決めたことに従う国民性がもしかしたら一つの原因ではないかと思います。

堤:おふたりとも大事なポイントを話してくれました。今、私たちの身の回りにはアップルのスマートフォンがあって、なにか分からないときはグーグルのウェブ検索を使う。一日に何回もFacebookをチェックする、そうですよね? GAFAはそもそも特殊な存在で、彼らがビジネスをやっている場所は仮想空間です。これまではたくさんモノを作って売ってお金を儲けていた人が力を持つ時代でしたが、やがて目には見えない「データ」を仮想空間で扱うマーケットが急激に主流に変わったのです。

 ところが、仮想空間は商売する場所としてはまだ新しく、ルールがないんですね。GAFAはそこに最初に入って、無料のサービスと引き換えにたくさん個人データを集めました。サービスやSNSを使うことと引き換えに、私たちは個人情報や位置情報をアップロードしています。いつどこで誰と何を食べたか、そのときの感想などのデータを、GAFAが集めて加工して、少し先の行動を予測する商品として企業に売っているんです。GAFAは自分たちでプラットフォームも持っているので誰も競争できない。一人勝ちです。

 一方で、なぜ日本が勝てないか? お二人が言ったように、出る杭を打ってしまう日本の文化もやはりネックになっています。目に見えない技術やデータ、サービスの付加価値、知的財産という感覚がまだ薄い。優れたアニメーターが信じられない薄給で使われ、ノーベル賞級の科学者にクラウドファンディングで研究費を集めさせている始末です。アメリカや中国、ロシアは、データがこれから世界の権力争いの中心になることをよく理解しています。だから技術者にかけるお金の規模が違う。シリコンバレーで働くソフトウェアエンジニアの平均年収が1527万円であるのに対し、日本は444万円、実に3分の1なんです。

 優れたIT技術者は大企業にいるとは限りません。無名の中小企業の片隅にいたり、引きこもりの子の中にとんでもない逸材がいるかもしれない。アメリカや中国はしっかり投資して育てます。でも、日本はその感覚がまだ弱く、企業に雇われるのがせいぜいで、国がお金を出さない。すごく遅れているんですね。そこで差が付いてしまった、という現実があります。ここはデジタル庁始め、大至急意識のギアを変えていかなければなりません。

大学生からの質問に答える堤未果さん

テクノロジーで実力社会が加速する?

田中:インターネット上で「情報強者」「情報弱者」という言葉を見かけますが、テクノロジーによって実力社会は加速するのでしょうか? 16年の米大統領選を境にPost Truthという言葉の流行や、最近ではメリトクラシーに注目が集まっています。超巨大テック企業のプラットフォームコンテンツが生み出す社会の分断に対して、我々はどう対処していけばいいのでしょうか。

堤:メリトクラシーとは一言で言うと「能力主義」、実力や能力ですべての価値が決まる、という考え方ですね。おふたりはテック企業のコンテンツが生み出す分断をどういうときに感じますか。

田中:衆議院選挙や少し前の横浜市長選で、候補者を支持する人たちが論戦を繰り広げているのをツイッターでよく目にしたのですが、自分が信じたいものしか見ないようになっているように思えて分断を感じました。

大木:SNSが発展してきたことによって、自分と意見が似ている人を見つけやすくなりました。仲間がいるからこの意見は正しいんだと思い込む人が多くなったのかな、と感じています。

堤:おっしゃる通りですね。GAFAのマーケティング手法の一つとして、感情を操作することがあります。たとえば(SNSなどで)「いいね」がつくと、私たちは報酬をもらったような気持ちになるんですね。脳から報酬を得たときの嬉しい成分が出る。逆に自分の投稿がスルーされたら孤独感を感じる。そういった感情を、飴と鞭のように上手に使い分けて、最終的に消費行動に結びつけるのがGAFAのビジネスモデルです。

 だから、SNSには「感情」を動かされているのだと意識することが大事です。実はSNSはとても個人的なもので、自分という仮想空間に他の意見を持っている人がだんだんいなくなると、たこつぼの中に入っていきます。そうなると、企業は同じ思想を持った人に同じ商品を売るほうがモノを売りやすい。そういう風に設計されているからです。

 ではどうしたらいいか? 実は単純な話で、頭の中だけでもたこつぼの外に出て、GAFAの外にも世界があると知っているだけで違ってきます。たとえば、携帯をオフにして仮想空間から離れて情報が入らない日を過ごしてみる。そうすると感情的にコントロールされづらくなってきます。個人でできることですが、これからすごく影響が大きくなってくると思います。GAFAは、私たちの大きな世界の、大きな人生の中の一部なのだと、おふたりのような世代の方々が知っているかどうかで、今後、分断は変わってくると思います。そのことを分かっている人は逆にデジタルを使って、分断をもう一度つなぎ直すことができるのですよ。

デジタル化の推進に「公共の精神」が不可欠

田中:ありがとうございます。GAFAの世界を相対化して、ひとりひとりが考えることが必要ですね。次の質問ですが、本書で政府の「公共の精神」の重要性を説かれています。さまざまな利権の事例もありましたが、現在日本でどのように「公共の精神」が失われつつあり、それを取り戻すために必要だと思うことを教えてください。

堤:まず、公共について水道を例にして考えてみましょう。水はみんなのもので、自然災害が起きた時には、お金にならなくても被害に遭った地域の人にできるだけ早くきれいで安全な水を配らなくては、と思いますよね。それが公共の精神です。「今だけ、金だけ、自分だけ」ではなく、みんなのため、地域のため、100年後の国を生きる子どもや孫が幸せに笑っていられるように、という考えですね。

 でもお金にならないし効率が悪いので、デジタル化を進めるときに企業の論理だけで進めれば、公共の精神は当然の結果としてなくなっていくでしょう。ただし誤解してはいけないのはデジタル化するから公共の精神がなくなるのではないということです。デジタルはテクノロジーであり、良いも悪いもない「道具」だからです。たとえば、テクノロジーに、「効率、数値、スピード」以外には価値がないとする新自由主義が組み合わさるとディストピアになります。

 ところが、デジタルと公共の精神がドッキングしたら素晴らしいユートピアが来ます。多様性がしっかりリスペクトされる社会の仕組みを作ることも、社会的に弱い人もどんな立場の人でも政治に等しく意見を言う仕組みを作ることもできます。ディストピアにしないためには公共の精神が絶対に不可欠なのです。

 水道も、採算がとれるように限界集落の水道は直さないでおきましょう、となると公共の精神がないのですごく殺伐とした社会になります。公共の精神があってデジタル化すると、どうやったら人口がとても少ないところにも水道が行き渡るかを考えてテクノロジーを使うようになります。実はデジタル化を成功させる最大のポイントは、一番デジタルから遠いところにあるものをどれだけ大切にできるか、です。そこで未来が変わる、ということですね。

『デジタル・ファシズム』の著者・堤未果さん、大学生の大木咲貴子さん、田中唯翔さん

大木:最後に、これからの時代を担っていく若い世代に堤さんが期待することを教えてください。

堤:デジタル化は止まらないし、もっと急ピッチになっていきます。テクノロジーは素晴らしいので上手に使っていけば良いと思っています。日本ではデジタル庁がつくられましたが、デジタルを使ってその先にどんなふうに国民を幸福にしていくのかのビジョンがみえず、大臣も1ヶ月で交代、プラットフォームは外国企業に任せるなど、今のデジタル化だけを見ているとディストピア方面に向かっていると不安にならざるを得ないのですが、、私は希望を捨てていません。何故なら実はデジタル社会をこれから作っていくのはおふたりのような若い年代のデジタルネイティブの人たちだからです。まず、私たちが設計していく世代なんだ! と思ってください。

 自分たちがのびのび暮らすことができて、誇りを持って働き、年を取るのが楽しみになる、子どもや孫にも残したいと思える社会のイメージをまず描いてみてください。そして、それをデジタルの新しい技術を使って私たちがつくろう、と決めるのです。台湾のオードリー・タンさんは、デジタルを上手に使えば本当に幸せな民主的な社会が必ずできる、と言っています。良い未来を見ているんですね。日本は遅れているからこそ、今ならまだ設計段階で変えられる余地があるんです。田中さん、大木さんの世代の人たちには、この設計する人たちの中に、意識だけでもいいので参加してほしいのです。技術ではなく、いかにデジタルができない人たちや社会の中の弱い人たちに寄り添って設計できるかどうかが一番大事なことだと、私は信じているのです。

 この本は(デジタル化について)ディストピアとユートピアとどちらも選べるというつもりで書きましたが、今は日本がユートピアに向かうためのチャンスなので、ぜひ10代の方々にこれを読んで幸せなデジタル社会を作ってほしいと思っています。

大木:公共の精神をしっかりと持ち合わせて自分たちの未来をつくっていきたいと思いました。普段なかなかデジタル社会の危険性や落とし穴に考えを巡らせることがありませんでしたが、とても良い機会になりました。

田中:この国が外資系企業に買われてしまう危機感、そして、自分たちがデジタルネイティブとして政治や制度設計に参加していかなくては、と強く責任を感じました。ありがとうございました。

※トークの動画は12月7日まで公開しています。