幕末の江戸で活躍した新徴組(しんちょうぐみ)。出羽庄内藩支配下の剣客集団だ。有名な新選組の兄弟分ともいえる治安維持組織の史料を渉猟し、実態を紹介した。「書名の『おまわりさん』は警察官などによる警邏(けいら)の起源が、江戸を巡回警備した新徴組に発しているから。ただ、市民には非常に恐れられた存在でした」
もともとの専門は近世農村史と貨幣史。東京大学史料編纂(へんさん)所で専門職員として古文書の整理・研究に従事してきた。新徴組との関わりは18年前から。大河ドラマ「新選組!」放映にあわせ、東京都日野市から土方歳三の義兄の佐藤彦五郎や井上源三郎に関わる新出史料の調査を依頼され、約5千点の文書を読み込んだ。
「その過程で幕府が文久2(1862)年に募集した浪士組が京都で分裂した際、現地に残った少数派が新選組となり、江戸に戻った大多数の浪士が新徴組を立ち上げたことを知りました。であれば、この二つの組織はあわせて研究しないと幕末の東国の尊皇攘夷(そんのうじょうい)志士像には迫れない。そう考えて研究を始めました」
新徴組は文久3年に169人で発足し、当初は幕府の御家人扱いだったが、後に庄内藩に移籍され、戊辰戦争では庄内藩士として、東北に進軍してきた官軍と対決する。
本書では、幕府が設置した講武所剣術教授方の桃井春蔵といさかいを起こしたり、吉原遊郭に乱入した幕府歩兵を尋問したりと、多忙に過ごした日常が掘り起こされている。
2018年に出した『新徴組の真実にせまる』に続く関連書。だが、最後の「組士」千葉弥一郎を除き、生前に活動を語った人がほとんどいないため「わからないことだらけ」という。「組士の子孫の家には彼らの手紙などが残されている可能性が高い。それらを探しだし、知られざる歴史をよみがえらせたい」(文・写真 宮代栄一)=朝日新聞2021年11月20日掲載