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村上春樹さん、自前レコード+評伝朗読 @早稲田大国際文学館

イベントでスタン・ゲッツについて語った村上春樹さん=早稲田大学提供

サックスの巨人ゲッツ、神髄はリリシズム 

 作家の村上春樹さんが自前のレコードをかけながら音楽について語るイベントが早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)で13日に開かれた。ライブラリーの開館記念企画「Authors Alive!~作家に会おう~」の第4回。村上さんは自ら訳した評伝『スタン・ゲッツ 音楽を生きる』(ドナルド・L・マギン著、新潮社)をときおり朗読しながら、ジャズサックス界の巨人の生涯を振り返った。

 ゲッツは1927年生まれ。貧しい家庭に生まれながら、中古のサックスを手に入れ、15歳からプロとして演奏活動を始めた。村上さんは「彼には特別な才能がいくつかある。一つはリード楽器は何でも吹ける。それから楽譜をぱっとみて初見で吹けちゃう」。イベントの1曲目は21歳、ウディ・ハーマン楽団在籍時の「アーリー・オータム」。その後は曲の背景をジャズ史とからめ、自らの思いを交えながら次々と紹介していった。

 「高校生の時に聴きまくり、これでゲッツを好きになった」という「フォーカス」からの「ア・サマー・アフタヌーン」、「ゲッツのボサノバは他の人とは全然違う。彼のリリシズムとブラジル音楽の親和性はほかでは得がたいもの」と言いながらかけた名盤「ゲッツ/ジルベルト」からの「コルコヴァード」……。

 華やかな音楽遍歴の陰でゲッツは終生、酒と麻薬の中毒に苦しんだ。「音楽が独立生命体のようにある。宿主がでたらめでも進化していくんです」

 最後は64歳で亡くなる3カ月前、がんに侵されながらも豊かな響きを聞かせた91年のライブから「ファースト・ソング」。村上さんは訳書のあとがきの朗読でイベントを締めくくった。

 「ゲッツの音楽の神髄はそのリリシズムにある。センチメンタリズムを超えた深い叙情精神だ。しかしそれはあくまでコインの一面に過ぎない。(中略)真の美とは、根源にそのような危険な成り立ちを避けがたく抱えたものなのだ」

 「Authors Alive!」は全6回の予定。詳細はウェブサイトで。(野波健祐)=朝日新聞2021年11月24日掲載