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すばる文学賞・永井みみさん 死の淵からの気づき、主人公に謝った

すばる文学賞を受けた永井みみさん

 秋は新人賞がそろう季節。純文学ではすばる文学賞が光っていた。永井みみさんの「ミシンと金魚」と、佳作の石田夏穂さんの「我が友、スミス」。集英社が主催する出版四賞の贈呈式が先月19日に都内で開かれ、受賞者が作品への思いを語った。

 「ミシンと金魚」は、認知に衰えのある安田カケイさんの一人語りで物語が進む。デイサービスのスタッフとのやりとりはユーモラスで、カケイさんの壮絶な過去までも柔らかに描く、斬新な老人小説だ。選考委員を代表して奥泉光さんは「一人称でとりとめもなく語る、その語りに魅力がある。例年以上に水準が高かった」と評した。

 永井さんは1965年生まれ。訪問介護のヘルパーの経験があるという。受賞のあいさつを「私ではなく、主人公がいただいた賞です」とはじめた。新型コロナに感染して死の淵をさまよったと明かし、「生きて戻れたときに、私は高い位置から書いていたと気づきました。ごめんなさいとカケイさんに謝った。それからカケイさんが目の前にいるように感じられ、見えたままを書きました」。

 佳作の「我が友、スミス」はボディービルにのめり込んでいく女性が主人公。石田さんは1991年生まれ、筋トレは趣味という。「趣味に走り、楽しかったのは自分だけ。それが結果として多くの人に読んでもらえてうれしい」

 2作は「すばる11月号」に収録。単行本は「ミシンと金魚」が来年2月、「我が友、スミス」は同3月に刊行予定。(中村真理子)=朝日新聞2021年12月1日掲載