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池上彰、佐藤優「真説 日本左翼史」 独裁の気配に警鐘、だれかの意思をだれかに代表させてはいけない

 「革命はいかにしてなされてはいけないか」。かつてアナキストの大杉栄は、ロシアの共産党政権を批判してこういった。

 聖書よろしく教義となったマルクスのおしえ。労働者はこうやって苦しんでいて、こうやって革命をおこして、こうやって救済されることをのぞんでいる。マルクスをまなんだ少数の知識人だけがそれをしっている。ほとんどの労働者が革命など求めていなくても、それはまだ真の自分の意思に気づいていないだけだ。

 だから、すでに覚醒した知識人たちは共産党を結成して、みんなを正しく指導していかなくてはならない。いいかえれば、党の指導者は全労働者の意思を代表している。なにをやってもみんなのため。それに逆らおうものならみんなの敵だ。そんな党が政権を掌握してしまうのだ。独裁的な権力がふるわれる。異をとなえるものが処刑され、さらに党内部で粛清のあらし。

 さて、本書は戦後日本のマルクス主義の歴史をたどったものだ。日本共産党、日本社会党から新左翼の諸党派まで、その理論的指導者たちがなにをしてきたのかが紹介されている。基本はロシアとおなじ。党の決定はぜったいに正しい。上からの命令には絶対服従。従わないものはみんなの敵だ。やめてくれ、ゲバルト。

 しかし、いまなぜこのような歴史をひもとくのか。今後の運動のために警鐘を鳴らしているのだ。たとえば気候変動。世界を変えろ。大勢がたちあがる。だが人類死滅の危機をつきつけられ、そこにこれしかないという人類救済プランでも示されたら、みんなすがりたくなってしまう。そのとき指導者を名のる者がこういうのだ。われわれは全人類の意思を代表している。あたらしい独裁の気配がする。

 あらためておもう。だれかの意思をだれかに代表させてはいけない。たとえ全人類の敵といわれてもゆずってはいけないものがある。おまえが舵(かじ)をとれ。自由だ。=朝日新聞2022年1月29日掲載

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 講談社現代新書・990円=8刷5万部。昨年6月刊。編集者は「なぜ左派は弱体化したのか、という問題意識が読者にあるのでは」。