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「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展のここがスゴイ! 「賢者の石」の作り方やマンドレイクの資料も展示

(上から)「オルガ・ハントの箒」魔術・魔法博物館蔵/ジム・ケイ《クィディッチをするハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの習作》ブルームズベリー社蔵

東京駅の“9と4分の3番線”から魔法の世界へ

 魔法界(展覧会会場)への入り口は、歴史的建造物である東京駅丸の内駅舎の中にある東京ステーションギャラリーにあります。たくさんの人たちが行き交うターミナル駅、赤い煉瓦造りの駅舎と、ホグワーツ魔法魔術学校行きの特急乗り場として物語に登場するロンドンのキングス・クロス駅の「9と4分の3番線」を思わせる雰囲気がたっぷり。

(右)ジム・ケイ《『ハリー・ポッターと賢者の石』の9と3/4番線の習作》ブルームズベリー社蔵

 展覧会は、ハリーたちが学んだホグワーツ魔法魔術学校の科目に沿って構成されています。「魔法薬学」「錬金術」「占い学」「闇の魔術に対する防衛術」など、物語でもお馴染みのものばかりで、まるでホグワーツに体験入学したような気分が味わえるのはハリポタファンならたまらないはずです。

各科目を担当する教授たちの肖像画があるのもホグワーツ気分に浸れるポイントです。左は、ジム・ケイ《セブルス・スネイプ教授の肖像》ブルームズベリー社蔵

あのニコラス・フラメルもマンドレイクも実在⁉︎

 シリーズ第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』の物語を動かす「賢者の石」は、ファンタジーものに度々登場する不思議な力が宿る石。手にした者は不老不死を手に入れられるといわれています。

 会場でまず目を引いたのは、その「賢者の石」の作り方が記された全長4メートル超という巻物『リプリー・スクロール』。英国の錬金術師、ジョージ・リプリーの教義に基づいて描かれたものとのことで、ヘビやドラゴンなどのシンボルがたくさん散りばめられています。写真手前側の赤、白、黒の丸い石が賢者の石なんだとか。誰でも簡単に読み解けるものではなく、錬金術を極めた人だけが解読できる神秘的な巻物です。

ジェームズ・スタンディッシュ『リプリー・スクロール』イングランド、16世紀 大英図書館蔵

 『ハリー・ポッターと賢者の石』では、唯一現存する賢者の石は錬金術師ニコラス・フラメルが作ったもののみだと語られています。このニコラス・フラメル、てっきりフィクションの人物かと思いきや、彼とその妻を描いたとされる水彩画も存在しており、中世のパリに実在したという記録が残っているとのこと。といっても錬金術師ではなかったそうですが……。どういうわけか、死後になって賢者の石の精製に成功した錬金術師として伝わっているのだそうです。

 実在するといえば、古くから薬草として用いられたマンドレイクに関する資料も見逃せません。『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で、温室でハリーたちがマンドレイクの苗の植え替えをする場面をおぼえている人は多いのでは? 根の部分が泥んこの醜い赤ん坊の姿をした、あの不思議な植物です。

(左から)ジム・ケイ《マンドレイクの習作》ブルームズベリー社蔵/ジム・ケイ《庭小人の習作》ブルームズベリー社蔵

 根が人のように見えるその奇妙な形からか、マンドレイクについて記された文献はいろいろと残っています。なかには、マンドレイクの安全な収穫方法が記されたものも。マンドレイクの泣き声を聞くと命を落とす危険があることから、ハリーたちはふわふわの耳当てを着けて作業していましたが、犬に引っ張らせて引っこ抜くという、ちょっとユニークな方法を紹介する本(写真右)もあります。

(左から)『薬物誌(医薬の材料の書)』バグダッド、14世紀 大英図書館蔵/ジョヴァンニ・カダモスト『図説薬草書』イタリアまたはドイツ、15世紀 大英図書館蔵

 もう一つ、これも実在したのかと驚いたのが、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で占い学の授業シーンに登場する「茶の葉占い」。ティーカップに残った茶葉のおりの形や位置を見て占うというものです。19世紀のイギリスではアフターヌーン・ティーが習慣になったことに加え、スピリチュアルなものへの関心も高まったこともあり、茶の葉占いを楽しむ人たちがいたんだとか。占いの手引書や専用のティーカップまでありました。

(左から)パラゴン社製「運勢を告げるティーカップとソーサー」ストーク=オン=トレント、1932-39年頃 魔術・魔法博物館蔵/スコットランド高地の予見者『ティーカップ占い:茶葉で運勢をみる方法』トロント、1920年頃 大英図書館蔵

直筆メモやイラストにほとばしるJ.K.ローリングの創造力

 「ハリー・ポッター」の世界は、数多くの言い伝えや風習を参照して丁寧に作り込まれていると同時に、作者J.K.ローリングの豊かな創造力によって支えられています。じっくりと見てほしいのがそのイラストやメモの数々。

 物語の中で魔法道具の店が立ち並ぶ「ダイアゴン横丁」へと続く入口は、レンガの壁を叩くと出てくる仕掛け。その出現の仕方を6段階で示したスケッチを見ると、J.K.ローリングの頭の中ではもはや現実のように動いていたように思えます。

(左)J.K.ローリング《ダイアゴン横丁の入り口のスケッチ》1990年 J.K.ローリング蔵

 また、ホグワーツ魔法魔術学校では、新入生を「グリフィンドール」「レイブンクロー」「ハッフルパフ」「スリザリン」と各寮に組み分けるのは組分け帽子の役目。この組分け方法についても構想中のメモからは、各寮の創始者の像が動き出して生徒を選ぶ、なぞなぞなどのアイデアもあったことが伺えます。

(左から)J.K.ローリング「生徒の組分けに関するメモ」J.K.ローリング蔵/J.K.ローリング「組分け帽子の歌」J.K.ローリング蔵

誰もが知っている魔法の道具や呪文の資料も

 たとえ「ハリー・ポッター」シリーズの本を読んだことも映画を見たことがなくても、魔法を一度でも信じたことがある人なら、存分に楽しめるのが本展のすごいところでもあります。

 例えば、魔女といえば多くの人が思い浮かべるであろう、箒や大鍋といった道具類も展示されています。しかも、実際に使われていたと伝わるものであり、それらにまつわるエピソードも残っているんです!

(上から)「オルガ・ハントの箒」魔術・魔法博物館蔵/ジム・ケイ《クィディッチをするハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの習作》ブルームズベリー社蔵

(左)「破裂した大鍋」20世紀 魔術・魔法博物館蔵

 おそらく世界一有名な呪文「アブラカダブラ」が記された文献もあります。誰もが知るだけに何でもできてしまう万能呪文なのかと思いきや、古代では病を癒す呪文として使われていたんだそう。この呪文が残る最古の記録『医学の書』には、マラリア治療の呪文として記されています。今ならコロナに向けて唱えたいところです。ちなみに、「ハリー・ポッター」の世界で「許されざる呪文」の一つである、死の呪い「アバダケダブラ」は「アブラカダブラ」から派生したものだそうですが、真逆ともいえる効果。言い間違いには要注意です。

(左から)クイントゥス・セレヌス・サンモニクス『医学の書』カンタベリー、13世紀 大英図書館蔵/『ギリシャの魔法手引書』テーベ、4世紀 大英図書館蔵

 バジリスク(大蛇)や不死鳥、マーピープル(人魚)などが「ハリー・ポッター」の世界に登場することから、古今東西の迷信として伝わる幻の生物の関連資料も並びます。ハリポタ展で、河童や人魚のミイラを目にするとは予想外でした。

(左)ジム・ケイ《ハリー・ポッターとバジリスクの習作》ブルームズベリー社蔵

(左)「人魚ミイラ」日本、1682年寄贈(?)瑞龍寺(通称 銀眼寺)蔵

 「ハリー・ポッター」シリーズの醍醐味は、物語の世界が現実世界に横たわるファンタジーとちょうどいい塩梅で交錯しているところにあるのかもしれません。本展に並ぶ約140点もの資料や美術作品を通して、決して子ども騙しではない物語の奥深さをぜひ体感してみてください。会場を出ると、「ハリー・ポッター」シリーズを改めて楽しみたくなるはずです。

世界中の「ハリー・ポッター」小説 1997-2017年