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「地球外生命」書評 楽観も悲観も排して論じる未来

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2022年02月05日
地球外生命 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来 (中公新書) 著者:小林 憲正 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121026767
発売⽇: 2021/12/21
サイズ: 18cm/274p

「地球外生命」 [著]小林憲正

 太陽系外惑星研究の急速な発展を背景として、天文学では地球外生命探査が真剣に検討されるようになった。一方で、生物学者の多くは冷ややかに思える。
 地球上の生命の起源がほぼ未解明の現状で、地球外生命など時期尚早だと考えるのも無理はない。確かに天文学者が考える宇宙生物学は期待が先走り気味だ。
 化学出身の著者は、楽観的な天文学者と悲観的な生物学者の中間的立場から、日本の宇宙生物学を牽引(けんいん)し続けてきた一人である。
 本書は、まず地球外生命観の歴史的変遷、次に現代の生命起源研究、そして地球上の生物進化史を概観する。この手の解説には珍しく、面倒な化学式や地質年代区分を極力避けつつ要点を押さえた記述となっており、とてもわかりやすい。
 探査機を送り生命の存在を直接検証できるのは太陽系内天体だけだ。特に有望視されているのは、火星、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドゥスとタイタンである。これらについては、現状と将来計画が詳しく紹介されている。
 一方で、太陽系を超えた広大な宇宙を探査するのは天文学的観測しかない。特にSFでおなじみの知的生命体からの電波は、仮に受信したならば明らかな生命存在の証拠となる。我々が受信可能な高度知的文明を持つ惑星は、この銀河系内に何個存在するのか。その推定に必要な条件を列挙してまとめたものがドレイク方程式なのだが、まだ予想不可能な因子が多すぎて信頼できる答えは導けない。
 地球外生命探査は成功するかどうかとは無関係に、この地球を相対化し宇宙における生命の普遍性と知的文明の多様性を考え、さらに地球の未来を真剣に論じるきっかけとなるはずだ。詳しくは、最終章「地球外生命から考える人類のルーツと未来」で著者が語る展望をお読みいただきたい。
 私も含め天文学者にありがちな夢物語を排し、現時点での宇宙生物学をバランス良く論じた好著である。
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こばやし・けんせい 1954年生まれ。横浜国立大名誉教授。著書に『アストロバイオロジー』『生命の起源』など。