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高濱正伸さん監修の「おやくそくえほん」 「これだけはしてほしい」42の習慣

文:日下淳子

家族の中に「ゆるがないルール」を

――親が顔をしかめて子どもに言う定番のセリフがある。「うるさくしないで!」「ほら、『ありがとう』は?」「こんなに散らかして!」。大人にとって非常識なことを子どもがすると、ほとんどの親はまず叱ってしまう。でもその常識、子どもにとっては当たり前でないこともあるのでは? 世の中のルールはどうなっているのか、親子で話し合う機会を持つために作られたのが、売上部数12万部を突破した絵本『おやくそくえほん』(日本図書センター)だ。

 年に200本ぐらい保護者向けの講演をしているのですが、親御さんからの質問で一番多いのが「しつけ」や「叱り方」についてです。叱り慣れていないままお母さんやお父さんになるので、「この叱り方でいいのか」と胸がもやもやするのは普通のこと。実は、このもやもやの原因は、ルールが定まっていないからなんです。うちでは、どういうことをしたら叱られるのか、子どもと約束していない。子どもの精神不安の原因をいろいろ探ると、あるときに叱ったのに、あるときは見逃してくれたという、基準がずれることが一因です。これでは何が悪かったのか、子どもはわからなくなってしまいます。

 『おやくそくえほん』では、「なにかしてもらったら『ありがとう』という」「レストランのテーブルにあるものはあそばない」「ぬいだくつはそろえる」など、これだけはしてほしい42の習慣を取り上げました。これを、親子で一緒に読んで欲しいですね。「脱いだ靴はそろえるんだね。左、右、ぴったりそろってるね」「本当だ、そろってるね」と、読みながら共感してほしいです。ただ、自分の価値観と違うこともあるでしょう。大切なことは、しつけに正解はないということです。「しずかにこうどうする」という項目を、「うちは元気が一番なので!」と替えた家庭もあります。それでいいと思うんですよ。この絵本を一つのたたき台として、一緒に読みながら、その家なりの決まり事である「家訓」を作って欲しいと思っています。

『おやくそくえほん』(日本図書センター)より

 家訓というのは「決意」でもあります。子どもが後で「みんなやってるのに」となんとか論破しようとしても「うちの家訓だからダメ」と言い切ることが大事。しつけは、家族の中でのゆるがないルールなんです。だからこそ、理由も説明せずに親がただ押し付けるのではなく、家族で納得できるよう、絵本の中に「おやくそく」に関する具体的な声かけも書きました。

「おやくそく」がわかれば自由になれる

――おやくそくの中でも、まず伝えなければならないのは、危険なことについて。高濱さんは昨年、『あんしんえほん』(日本図書センター)という続編を作った。

 (高濱さんが設立した学習塾の)「花まる学習会」では野外体験をやっているのですが、子どもに釣りを楽しんでもらうとき、最初に伝えるのが、毒のある魚がいること、かえしのある針はひっかけたら抜けなくなることなどです。安全・安心の中でこそ自由になれると感じています。この世界を生きていくには、まず規範を知ること。その世界の「おやくそく」がわかることで、本当に自由になれる。それを、こういう絵本を経て知ってもらえたらと思っています。

――『おやくそくえほん』にいろいろなしつけ項目が並ぶ中、最後のページに「じぶんをすきでいる」という項目がある。もし自分のことが好きかわからないと思ったら、お父さんやお母さんにぎゅーっとしてもらおう、と書かれている。『あんしんえほん』にも「こころがくるしくなったら、がんばるのをやすむ」とある。これもひとつの家族の「おやくそく」だ。

 いままでは「~しよう」というノウハウが書いてあったんですけど、最後はあなたの心が一番大事だし、あなたの心を大切にしてね、という意味で入れました。A君より足は遅いし、B君のように何でも持っていないけれど、自分には価値があると心から思えることが大事なんですよ。誰かとの比較の病、やらされの病にかかってしまうと、そこが見えなくなってくるんです。

 昨年の夏休み明け、私の担当している教室で、親子の分離不安で教室に入れない子がたくさんいました。7、8人にもなるなんて、いままでになかったことです。ああ、夏休み中に安心して過ごせなかったのかな、と思いました。このコロナ禍で親の安心が損なわれると、子どもも不安になります。究極は、親こそが自分の笑顔をキープできるかですね。ねぎらってもらったり、かまってもらったり、褒めてもらったり、ぎゅーっとしてもらったりという、人のつながりの中に自分を置かないと、大人も追い込まれてしまうんですよ。

『おやくそくえほん』(日本図書センター)より

 親に余裕がなくて子どもの心を見られなかったり、人目ばかりを気にして子どもを叱ってしまうときこそ、読みきかせをしてほしいです。読み聞かせの時間を軸にして、親のぬくもりと匂いを感じながら、絵を見て共感して一緒に話すことがいい。そういう読み聞かせ絵本の1冊に『おやくそくえほん』を入れてもらって、子どもに話しておきたいことを、体系的に整理するきっかけにしていただけたら嬉しいです。