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未来の学校はみんなが創る 教育評論家・尾木直樹さん@愛知・オルタナティブ・スクールあいち惟の森小学部・中学部

特別授業に先立ち校内の様子を見学し、刺激を受けた尾木さん。「次の世代の学校づくりのためにもどんどん発信して!」と子どもたちにリクエスト

学校選びにもう一つの選択

 小中学生が通う学校の選択肢が増えている。尾木直樹さんが訪れた「オルタナティブ・スクールあいち惟(ゆい)の森」もその一つ。オルタナティブには「代案」「もう一つの」「型にはまらない」といった意味があり、学校教育法に基づく教育機関とは別の、独自のカリキュラムに沿った学校運営をしている。

 たとえば基本理念に「自分らしく十分に生きる」を掲げる同校では、時間割も子どもたちが話し合って決める。科目には国語や算数、英語など「基礎学習」のほか、「自由活動」がある。その時間はカードゲームに興じたり、アクセサリーを作ったり、庭を走り回ったり、「自由」の使い方を自分なりに考えて過ごす。

 オーサー・ビジットの授業に先立ち、学校を見学させてもらった尾木さん。自由活動中にたき火をしていた子に誘われて焼きマシュマロをごちそうになり、開口一番に「私の小学生時代を思い出したわ!」。教員と児童が総出で学校の裏山に登り、ウサギ狩りをする日があったとか。「昔の学校にはみなさんの学校みたいに自由があった」
 捕まえたウサギは、「ウサギ汁になった。でも、食べたのは先生たち。夜、それで宴会していたのよ~」「ええー?!」。おおらかだった時代の思い出話に爆笑だ。

授業に先立ち「自由活動」を見学する尾木さん

公立も変わろうとしている

 授業は質疑応答形式で進められた。「尾木ママはオルタナティブ・スクールみたいな、公立ではない学校をどう思いますか?」。のっけから直球の質問にドギマギしながらも尾木さん、「理想の学校です!」。
 教育は本来、子ども一人ひとりに応じるべきものであって一律なものではない、個々の力をサポートするのが学校だと説き、「オランダでは以前からこの学校みたいなことをやっている。4歳の誕生日の翌月に入学して自分で時間割を決めるの。みなさんは先端を行っているのよ」
 実は、広島、熊本、静岡など、国内の公立校にもオルタナティブ・スクールの手法を導入する動きがあり、「20年後、30年後にはこれが当たり前の姿になっている」と予測。
なぜ学校は変わろうとしているのか。 

 「この中に転校してきた人、いる?」。尾木さんが尋ねると全員が手を挙げた。「前の学校が怖かった人もいるでしょう。そういうとき、どうする?」。「休む」という声が。「そう。今、全国に不登校の小中学生が約20万人いる、と言われています」
 コロナ禍の影響もあるが、「行き渋り」と呼ばれる、欠席や遅刻を繰り返す生徒も約33万人いるとか。「学校に楽しく行けない子が合計約53万人もいるなんて。こうしたのは大人の責任」と戒めた。
 「前の学校と今の学校、その違いを経験したみなさんの意見は大切。次の世代の学校づくりのためにもどんどん発信して!」と勇気づけ、「この学校を選んだ保護者の方には見る目があるわ!と、ゴマもする尾木ママです」と、笑わせた。

民家を改築した、文字どおりアットホームな雰囲気の教室

子どもは仲間でパートナー

 「尾木ママにとって子どもはどんな存在?」という質問もあった。「私、背が低いからどの子も見下ろせない。上から目線ができないの、物理的に」。腰をかがめ上目づかいする姿に思わず吹き出した後、真顔になり、「子どもは仲間、パートナーです」。
 それを象徴するエピソードに、中学校での担任経験がある。学級独自のクラブを作り、尾木さんも仲間に加わり楽しんだ。「探検、漫画、バレーボール、金魚クラブっていうのもあったわね。盛り上がったのよ~」

 ところが学業優先を主張する教員からクレームが入った。生徒たちは署名運動を展開して尾木さんを後押ししたが、「私、職員室で浮いちゃった」。
 質問には「なぜ教育評論家に?」というものもあり、「そういう経験があったから、『教育評論家』でもいいんだけど、私は『子どもの声の代弁者です』って言っている」。
 転校については生徒からこんなつぶやきも。「前の学校の友だちに、遊んでばかりの学校で大丈夫?って言われた」。これには尾木さん、「かわいそうに。学力って何だと思う?」。

 世界の共通認識は今、「学力=生き延びる力」であり、暗記教育に代表されるIQ(Intelligence Quotient:知能指数)からHQ(Humanity Quotient:人間性知能)が重視される時代に変わったと解説。「それには、新しい価値を創出する力、バランス力、自分を客観視できる力が必要と言われています。どれもテストに出題されがちな暗記問題では磨けない能力よね」

尾木さんの笑顔に子どもたちの緊張もほぐれていく

支えられ、つながりあっている

 日本の外に目を向けた話に視野が広がった子は多かったようだ。
 ある中学2年生は、「この学校には話し合いの時間がたくさんあるから、これからの学力に必要な力 が自然と身につくのでは、と思いました。通学を決めてよかったです」。

 「算数が好きだから国語は捨てた」とぼやき、尾木さんに「それ大事。好きなことを突き詰めるといつの間にか苦手も突破しているよ」とエールを送られた小学5年生も、「この学校が好き。先端を行っているっていう話に驚いた」。
 他にも、「元気の秘訣は?」「話し合いの場で意識していることは?」など、次々と質問が。「ピンチはチャンスと思って悲観的にならない。私、高校の転入試験も大学受験も教員試験も全部失敗したけど、母は大丈夫よって。1回で成功したのは結婚だけ!」「話し合いで相手を負かそうと思ったことはありません。母の教えも、負けて勝てばいいのよ、でした」。時間の許す限り、親身に答えていった。

 この日、子どもたちが座っていた椅子は、「分野別学習」というカリキュラムで地域の建築工房と手作りした木製家具。本や遊具も寄付で集まっている。「いろんな人に支えられ、みんなの力でつながりあっていることを、学校に行くだけで学べるところが素晴らしい」と、尾木さん。「運営スタッフのご苦労が忍ばれるけれど、生き延びる力を育てる場の原形を見た感じがして感動しました」
 「尾木ママって話しやすいね」「また来て!」。子どもたちに囲まれ、「私が通学したいくらいよ~」と言い残し学校を後にした。