動画で想像した飛行シーン
――本作のタイトル「ブルーサーマル」とは、青空の下で発生する上昇気流のことで“つかまえたら幸せになれる風” とも言われているそうですが、今回のたまき役はオーディションでつかんだ役でしたね。どんな準備をして臨んだのでしょうか。
今まで受けた声優のオーディションでは、全体のストーリーみたいなものだけが分かる台本を全員に渡される形だったのですが、今回は初めて「この原作で、こういった内容で」という深いプロットをいただいたんです。なので、原作を先に読むこともできましたし、たまきがどういう女の子か研究しながら前もって役作りする時間が取れたのはとても良かったです。
――オーディションを受ける前からしっかりと役作りをされていたんですね。たまきが話す長崎弁やグライダーの知識もある程度学んでいたのですか。
グライダーの知識があるのと全くないのでは違うと思ったので、原作から知ることが多かったです。長崎弁は話したことがなかったのですが、オーディションでもらった台本が、たまきが空知先輩に長崎弁でまくしたてるような掛け合いのシーンだったので、「このくらいのテンションでいけばおもしろいかな」と家で色々試してから臨みました。
――完成した映画を見て、いかがでしたか?
原作漫画はモノクロなので、「アニメーションになったらどんな色がつくんだろう?」という楽しみがありました。実際に出来上がった作品を見たら、雲や空の描写がすごくキレイで、グライダーが飛ぶ瞬間に草木が風になびいている感じが、自分もそこにいるような気がしてとても引き込まれました。
――たまきが倉持先輩と初めてグライダーに乗ったシーンは、操縦席から見える景色や気流が動く様子など、実際に飛んでいるような臨場感がありましたね。
私は実際にグライダーに乗ったことがなかったので、「どれぐらいの音がするのかな」とか「後ろの席にいる倉持先輩とはどんな距離感で話しているんだろう?」ということをリアルにつかむのが難しくて、グライダーの動画を見てイメージしました。
グライダーは風の力を使って飛ぶので、きっと飛行機のようなエンジンで飛ぶものとは違うから、本当は乗ることができたらよかったのかもしれないです。収録中も「たまきが見た景色はどういうものだったんだろうな」と気になっていたので、空を飛んでいる時のドキドキ感やわくわく感も動画で想像しながら演じました。
悩みやつらさを言葉に
――グライダーというスポーツを通して、チームの絆やそれぞれの成長する姿が描かれつつ、たまきと倉持先輩、空知先輩とのほんのりとしたラブも絡んできます。たまきやお姉さん、倉持先輩、それぞれが過去のトラウマや悩みを抱え、葛藤する姿も描かれていますね。
私もたまきの悩みを知るまでは、「すごく明るくて元気な女の子なんだろうな」というイメージだけで終わっていたのですが、人間って裏側を知るとその人の弱さや痛みみたいなものがあって、自分が傷ついたことがないと人の痛みも分からないし、分かってあげられないですよね。たまきも自分が傷ついて悩んだ経験があるからこそ、倉持先輩やお姉さんに寄り添い、分かりあえたのかなと思います。
――堀田さんは悩んだときにどう乗り越えますか?
私は心の中でもやもやしていることをよく言葉にします。心の中だけで抱えていると毒が溜まっていくような気がするので、「自分は今何に悩んでいて、何がつらいんだろう」ということを「発散する!」という気持ちで声に出して吐き出すんです。独り言でもいいですし、もし支えてくれる友達や家族がいるなら、その人たちの負担にならない程度で聞いてもらうのもいいですよね。気持ちを軽くするために、言葉にする、口に出すということを大事にしています。
この映画が公開される春は新しいことが始まる季節なので、ドキドキしたり不安だったりしている人も多いと思います。今、世の中がすごく不安な状況で、落ち着かない日々に下ばかり向いてしまうことも多いけど、この作品では人間関係がとてもステキに描かれていて、キャラクターたちを見ているととても前向きになれるんですよね。たまきに影響されて周りの人たちも変わっていったり、航空部で出会った人たちが彼女のその後の人生にとって大切な仲間になったり。
夢中になれるものが見つかるきっかけや、人生が変わることってどんなところで起きるか分からないですし、人と人とが影響し合って、それがすごくいい方向に向かっていることをこの作品からとても感じました。私はこの作品を通して「上を向いてみようかな」と思える気持ちになったので、皆さんにもこの思いが届けばいいなと思います。
小説に救いを求めている
―― 今作は漫画が原作でしたが、普段はどんな本を読まれますか。
私は漫画よりも小説を読むことが多くて、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)も好きですし、一番好きなのは宇山佳佑さんの『この恋は世界で一番美しい雨』(集英社)という作品です。おすすめしてもらって読み始めたんですけど、作品に出てくる女の子にすごく感情移入してしまって、もし実写化したらやりたいなと思う作品の一つです。この作品では雨がテーマになっているのですが、そういった自然現象と何かが結び付けられているお話が好きで、ハッピーだけじゃなく、人の弱さの部分もちゃんと描いているストーリーが好きですね。
――堀田さんが本から得るものって何でしょうか。
私が本を読むタイミングって、気持ちが落ちている時や答えを見つけたい時、「違う世界に行きたい!」と思う時が多いです。どこか小説に救いを求めているところがあるので、自分自身が具現化できなかった言葉が作品の中にあって、小説の言葉から救われたこともあります。
あとはおとぎ話のような、自分が経験できない世界に連れて行ってもらえるのは役者業とどこかが似ている気がします。自分じゃない何者かになって、その主人公になって旅ができる非現実的な瞬間が、小説や本にはあるなと思います。