1. HOME
  2. インタビュー
  3. 著者に会いたい
  4. 蝉谷めぐ実さん「おんなの女房」インタビュー 夫は「お姫(ひい)様」男なのか

蝉谷めぐ実さん「おんなの女房」インタビュー 夫は「お姫(ひい)様」男なのか

蝉谷めぐ実さん=小嶋淑子氏撮影

 チョン、と拍子木が鳴ると心が跳ねる。小学校に上がったばかりのころ、祖母と見にいった歌舞伎で、大向こうのまねをして声をかけ、血相を変えた祖母に連れ出された。

 デビュー作の前作『化け者心中』は日常から女性の姿形で過ごす江戸時代の女形(おんながた)役者の業の深さを掘り下げ、中山義秀文学賞に。今作では、女形の女房の目線で物語が進む。

 舞台は文政期の江戸。武家の娘、志乃は気鋭の若女形(おやま)、喜多村燕弥(えんや)のもとに嫁ぐことになった。武家の作法をかたくなに守り、夫の顔さえ見ずに移り住んだ家で志乃を待ち受けていたのは、常日頃から役になりきった「お姫(ひい)様」だった。「生活や人生にまで芸事が侵食しているのが、江戸時代の女形。とはいえ、女として生きていても、妻がいれば必然的に男になる部分が出てくるはず。その線引きはどうしていたのか。存在がなぞなんです」

 武家の子女、という枠の中で生きてきた志乃は、今度は女房、という新たな枠に自身を当てはめようとするが、そうは問屋が卸さない。目の前の夫は「男」ではないからだ。燕弥が日々演じるお姫様は、敵方の男を慕って家出したり、蛇になったりと自由奔放、変幻自在。志乃は夫を通じて様々な「女」たちに出会い、いつしか自身の変化に気づく。「現代より女性に対して厳しいルールがあったにもかかわらず、文化・文政時代の歌舞伎は型破りなお姫様が多い。当時の女性たちも、きっと感じていたところがあったと思います」

 大学の講義で江戸時代の女形の生き様を知り、その奥深さにはまった。卒論も歌舞伎がテーマ。最近、役者絵の収集にも手を染めた。「歌舞伎への『好き』がなえる気配がない。他のものにも手を出しつつ、歌舞伎は書き続けると思う」。次は『化け者心中』の続編を書く。(文・興野優平 写真・小嶋淑子氏)=朝日新聞2022年3月26日掲載