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【フルポン村上の俳句修行】蒼耳句会 連作一覧

逆撫でて

春浅き眉間に風の還りけり
鞦韆の揺れを帰れる夜雨かな
逆撫でて毛布が花のごとくある
蝌蚪生まる野に異国語の歌みちて
甘やかにけいれんしたり磯巾着
白つばき祈りに言葉ともなはず
夕星や春愁は雲しぼる手に
ヒヤシンス天使のみみのあな昏し
海ひかるまでを光つてゆく風か
星美しなにを話してみても春

(早田駒斗)

よろしくて

恋猫や焼きそばパンの紅生姜
春の雲伊達眼鏡だと打ち明けて
なぞなぞの答教へず春の昼
家の鍵閉めたかどうかつくしんぼ
スカートを穿きたい日なり百千鳥
ゆるゆると髪梳いてゐる春の風邪
花の昼猫の機嫌のよろしくて
退職も考へてをり春の鴨
春眠やキャッチボールの音のする
彼の人も此の人も居る春の夢

(正山小種)

ケチャップの缶

朧月花屋のあった空き地かな
焼売の歪みに醤油日脚伸ぶ
夜濯やニコちゃんマークの目が怖い
ケチャップの缶に木耳町中華
サザエさんの替え歌聞こゆ夕月夜
チータラの容器にポテコ長き夜
竹輪すき焼き卵は茶色の方
再生する豆苗激し霙の夜
バランスボールに反響するくしゃみ
太ももをティッシュの箱で掻く遅日

(村上健志)

酢の面

ちりとりを持ち探梅に加はりぬ
制帽を正してバレンタインの日
春雪や若草色の鯉のゑさ
白梅の影のびてゆく畑かな
売りものの鶯笛を吹いてをり
電柱が遊びの起点かぎろへる
空と雲おなじ色なる涅槃かな
春雷や胡椒ただよふ酢の面
よく振つてドレッシングは春の色
春闘の海に向かひて歩きけり

(千野千佳)

みづうみ

花ミモザ電車は南より来る
みづうみの真中の黙や雛祭
浴槽を内より濯ぎ春の風邪
春潮に胸をしづめるここちかな
永き日や角より埋めてゆくパズル
スイートピーゑくぼに影の生まれざる
流木のしばらく沈む彼岸かな
春の雨道に煙草の捩じ込まれ
足元にひかりふくらむ種袋
地を向ける望遠鏡や青き踏む

(日向美菜)

陸酔い

汽車走るところ町史に冴返る
ぷと光る薄氷に落とすなら何
陸酔いの空はひろくて二月の空
たぎらせる湯を蛤のうきしずみ
龍天に昇るⅤRの決闘
卒業の耳鳴り止まらない晴れ間
亀の鳴くあさ錠剤の飲み残し
かざぐるま差されて街の見える丘か
池うららか色ぬけているチェキの顔
旅こそは映画館(シネマ)へ行かな春の塵

(郡司和斗)

爪を噛む

手相見る前の検温月朧
天井に補修のテープ梅の宿
遠足のポッケに増えてゆく小石
蒲公英は絵の具バケツに生けておく
ぶらんこに魔術師になるための本
爪を噛むところ子猫に見られけり
ポップコーンの底に弾け損ねた春
初夏のエディブルフラワーを咀嚼
紫陽花や幼馴染を門で呼ぶ
筆箱の底に夏休みの付箋

(後藤麻衣子)

土着信仰が根強い海峡の村の記録

海怖き者より沈む大南風
胸で引く帆索のしぶき海祭り
ふんどしで旗振る男児夕立に
海峡を隔て夜店の一直線
夕河岸や縄のくひこむたなごころ
錨鎖より舟生えてゐる精霊火
板前は蛸たたきつけぶつと断つ
江戸切子ほの薫るしながきの墨
花火果て射的の品の少なさよ
托鉢のゆるき右折や昼の月

(本野櫻魚)