「ケケと半分魔女」
母親をなくしたタタは、自分は「半分」だと感じ、満たされない気持ちを抱えている。優しい父親にも反発ばかり。母親のトランクにあった「おわりのとびら」という古い本の謎めいた言葉と出会い、自分の力で「半分」を見つける旅に出る……。
実はこの物語、「魔女の宅急便 その3」で、主人公キキを悩ませ振り回してくれた、生意気で風変わりな女の子ケケが大人になって書いたもの。おなじみのメンバーは出てこないがシリーズの気配がそこかしこに感じられる。謎だらけのわくわくする森の中に著者がうめてくれた言葉を抱きしめ、自分にとっての「おわり」からつながる「はじまり」を見つけることができる気がする。改めて物語の魔法に感謝したくなる一冊。(角野栄子作、佐竹美保画、福音館書店、税込み1650円、小学校中学年から)【丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん】
「わたしがテピンギー」
昔話の主役って男の子ばかり? 女の子は受け身で幸せを待つだけ? いいえ。このハイチの昔話の主人公は元気な女の子。知恵をはたらかせ、自ら幸せをつかみます。意地悪な継母に、知らないおじいさんの召使にされそうになったテピンギー。母の策略を逆手に取るアイデアが痛快です。「わたしがテピンギー わたしもテピンギー わたしたちもテピンギー」。いっしょに大人を手玉に取る女の子たちの歌と笑顔も最高。アルミ板を鮮やかに着色した絵が、女の子のはじける元気と友情をゆかいに伝えます。(中脇初枝再話、あずみ虫絵、偕成社、税込み1870円、4歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「シリアからきたバレリーナ」
11歳の少女アーヤは、内戦で故郷のシリアを離れ命からがら避難する途中、父親が行方不明になり母親は心身が衰弱してしまう。たどりついたイギリスでは、幼い弟の世話をしながら難民申請のために支援センターに通う日々。ある日音楽を耳にして吸い寄せられるように歩いていくと、そこはバレエ教室だった。アーヤは故郷でも夢中になっていたバレエをよりどころに、かつて難民だった先生にも支えられ、自分の居場所を見いだしていく。難民の少女の視点で紡がれた物語。(キャサリン・ブルートン作、尾崎愛子訳、平澤朋子絵、偕成社、税込み1650円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】=朝日新聞2022年2月26日掲載