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「わたくし、つまりNobody賞」の荒井裕樹さん 網目の粗い言葉多い今、「個」つつむ言葉を探す

「第15回わたくし、つまりNobody賞」の表彰式で記念講演をする荒井裕樹さん=東京都千代田区

 著書『まとまらない言葉を生きる』が反響を集め、本紙朝刊文化面でもコラムを連載中の障害者文化論研究者、荒井裕樹さん(41)がエッセイストの故・池田晶子さんを記念した「第15回わたくし、つまりNobody賞」に決まった。先月22日、東京都内での表彰式で講演した。

 演題は「言葉の網目で個をつつむ」。冒頭、荒井さんは昨今の国際情勢にふれて「かつてないほど、個人と国家の関係性について真剣に考えなければならない」と切り出した。

 障害ある人々の自己表現をテーマに研究を始めて約20年。国や社会に異議申し立てをした運動家たちとも深くつきあい、「自身の痛みと向き合い続けていたら、大きなものに歯向かわざるをえなくなった」人生の軌跡に接してきた。

 その尊厳をかけた闘いを伝えたい。でも言葉を紡ごうとすると、「するすると糸がほどけていくような」感じがあったという。

 障害者一人ひとりの生は多様なものだ。耐え難い迫害と苦しみがある。友情や恋愛や心温まる時間も存在する。その全体像に迫ろうと試行錯誤を重ねてきた。

 手がかりを与えてくれたのは、たとえばハンセン病療養所の患者らが残した資料の保存に尽力した回復者。荒井さんは「取りつかれたように」、彼らの文章を読んだ。素性を隠して生きなければならなかった人々が、薬包紙や紙切れに残した詩を。文芸誌を。日記を。なぜ彼らは表現したのか。人に伝えようとせずにいられなかったのか。

 荒井さんが試みたのは彼らの言葉をなぞることだった。「一文字一文字、とにかく書き写しました。研究者修行の第一歩でした」

 難病の人など、次はもう会えないかもしれないと覚悟して続けた交流も少なくない。彼らの「はかない生のきらめき」を記すために、責任がもてると実感できるまで取材し、思索し、1冊を書き上げるために5、6年をかけた。

 「言葉が速すぎ、網目の粗い言葉が増えた時代に、網目から一人一人の存在がこぼれ落ちている。速さや効率以外の言葉の力を探し求めたい」(藤生京子)=朝日新聞2022年5月11日掲載

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