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「不揃いな身体でアフリカを生きる」書評 入れ代わり立ち代わり続く援助

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2022年05月21日
不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ 著者:仲尾 友貴恵 出版社:世界思想社 ジャンル:福祉・介護

ISBN: 9784790717690
発売⽇: 2022/03/09
サイズ: 20cm/363p

福祉制度が実動しないタンザニアで、「ふつう」に働けない障害者たちは、いかに生計を立ててきたのか。障害学、都市下層研究、地域研究の枠組みを越え、植民地期から現在までの彼らの…

「不揃いな身体でアフリカを生きる」 [著]仲尾友貴恵

 すでに動き始めた乗合(のりあい)バスが急に止まる。窓の外を見ると、そこに両手を宙に漂わせ、ゆっくりと歩いてくる男がいる。早く出発したい運転手を制し、車掌は男に手を差し伸べ、バスに招く。ドア付近の客も席を譲る。男の目は白く濁っていた。インド洋に面したタンザニアの大都市ダルエスサラームで、筆者が障害者に関心を抱いたはじまりは、この都市ではごく「ふつう」のこんな光景だったという。
 乗り越えるべき研究の説明が丁寧な一方で、聞き取った内容の叙述がややコンパクトすぎるきらいがあるが、そんな私の小さな不満を吹き飛ばすほど、本書に登場する物乞いたちが魅力的だ(脚注に生々しい声が多く収録されているので読み飛ばさない方がよい)。
 貧困層の地区にも住んだ筆者は、自身も障害を持つ調査協力者の力を借り、ときに訝(いぶか)しがられつつ障害者からいろんな話を聞き出す。欠損部分を晒(さら)して物乞いする人の隣に座って話をすることもあった。
 街に頼れる人がいなくても、障害者が、時には物乞いとしても暮らしている。収入も意外に安定している。一人の障害者に、現地の友人、通りすがりの人、隣人、商売客らとの関係が網の目に絡んでおり、ものや金を借りたり、恵んでもらったり、逆に恵んだりしながら、生きている。もちろん経済的には苦しいのだが、不思議な朗らかさが全篇(ぜんぺん)に漂う。なんだか、みんな堂々としているのだ。その日食べる余裕がなくても、困っている人がいれば助けようとさえする障害者もいる。
 その場限りの援助者がたくさんいる、というのもこの都市で底辺の仕事をしながら生きていける理由の一つである。挨拶(あいさつ)をして、ちょっとお金を渡す、という関係が毎日入れ代わり立ち代わり続く。物質に恵まれている日本列島が、どうしてこんなに生きづらいのか。その意味を探るのにもってこいの書物だと思う。
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なかお・ゆきえ 1986年生まれ。国立民族学博物館外来研究員。専門は社会学・アフリカ地域研究・社会人類学。