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Z世代の川柳人・暮田真名さんが句集「ふりょの星」を刊行 「OD寿司」に「いけフリ」、言葉を勝手に走らせて

暮田真名さん

「サラ川」との違いは

――「川柳」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「サラリーマン川柳」だと思います。文学としての現代川柳とは、どのような違いがありますか?

 「サラリーマン川柳」や「シルバー川柳」は、属性川柳と言われています。サラリーマンという属性を持った受け手(読み手)が、最大限楽しめるようになっていると思うんですね。働いていて、妻子が居て、という属性に、受け手が当てはまっていればいるほど楽しめる。逆に、現代川柳はそういった属性を一切必要としない。受け手がなんであっても、どういう状態であっても、性別だったり、働いているとかいないとか、家庭があるとかないとか、そういうのを全部気にせずに取っ払った状態で読まざるを得ない。それが一番の違いかなって思います。

――暮田さんの代表作のひとつに「OD寿司」があります。全24句のすべてに「寿司」という単語を詠み込んだ連作ですね。

良い寿司は関節がよく曲がるんだ
寿司を縫う人は帰ってくれないか

 私、全然多作じゃないんですけど、「OD寿司」は、大学の一コマ90分の間に全部作ったんです。そんな短時間で作れたのはこれだけなんですけど……。二文字空くフレーズを作って、そこに寿司を入れていきました。もともとタイトルだけは決めていて。

 大学の講義で「ビートニク」っていう映画を見せてもらったんです。詩人たちのドキュメンタリーで、彼らはすごい薬物とかやってて。インタビュアーが「薬物についてどう思いますか」っていう質問をした時に、詩人のひとりが「overdose sushi」、つまり寿司も食い過ぎれば毒だぜ、って言っていたんです。あっ、オーバードーズ寿司はいいね! って。食べ物としての寿司は普通に好き、くらいなのですが、これからは一番好きな食べ物だと言っていくこともやぶさかではありません。

――川柳人に評価されているのは「いけフリ」ですよね。

いけにえにフリルがあって恥ずかしい

 「恥ずかしい」という言葉の使い方が新鮮だと言われました。感情語を使うと下手に見えるとか、嬉しいや悲しいという感情を書かないのが詩である、っていうのがあるところに、恥ずかしいをこんな角度で使うんだ、みたいな褒め方をしていただきました。いけフリという略称を連作のタイトルにしたのは、代表句として、代謝を早めたいなと思って。句の消費を早めたかったんです。ずっと「いけフリの人」と思われるのも、って。

 そもそも出版社から句集をこんなに早く出せると思っていなくて。私家版ではない句集を出すにはお金を貯めなきゃいけないので、出版社から出すのは生涯に一冊だけなんじゃないかと思っていました。だから、お話をいただいた時は気が動転して、「いけフリ落とさなきゃ!」って(笑)。代表句を落とすみたいな、尖ったことをしなきゃと思ったんですよ。でも最初に左右社の筒井菜央さんと話した時に、そういうことじゃなくて、普通に良い句集を作ろうと。それで、いけフリを入れることにしました。

言葉が勝手に書いてほしい

――暮田さんの句は、おもしろい要素と要素をかけ合わせている点が特徴的です。

余力があれば退廃しよう
2×2=4って夏の季語なの?

 取り合わせや二物衝撃みたいな意識はそんなになくって。逆に、飛躍しないようにしようとすると、頭で考えないといけない。言葉全体で考えたら、一つの単語と関係のある単語、飛躍していない単語のほうが圧倒的に少ないからです。なるべく考えないようにして作ると、おのずと飛躍した句になっちゃう。自分の中の理屈が句に見えちゃうのが好きじゃなくって。自分の知らないことを、言葉が勝手に書いてほしいみたいな気持ちがあるんです。なるべくこちらの考えは書かずに、勝手に言葉が走ってる状態にしたい。

 作り方としては、まず単語に助詞をくっつけてみる。「いけにえ」だったら「いけにえを」とか「いけにえが」とか。これかもって思った助詞にとりあえず固定して、続くフレーズを考える。それは音で考えることが多くて。「いけにえに」のあと、どういうふうな音の流れだったら575でスッキリいくかなって。その音を元に考えようって感じで作っています。

 日常生活を送っていて、人と喋っていたり、私はお笑いが好きなのでお笑いのラジオを聴いたりした時に、気になる単語を書き留めておくことが多いです。単語が溜まってきたり、締め切りが近くなってきたりすると、その単語を見て句を作っていきます。単語だけではなくて、言い回しとか、この語尾で作ろうっていうこともあります。

生まれた場所はヴィレヴァン

――『ふりょの星』は、一般の書店だけではなく、ヴィレッジヴァンガードで大きく展開されていますね。著者として希望したんですか?

 最初に、編集の筒井さんに「どういう人に届けたいですか」と聞かれたんですけど、私は「おしゃれだと思われたい」とかしか言ってなかった(笑)。そのあと、歌人の平岡直子さんとお話しした時に「暮田さんの句集はヴィレヴァンに置かれてほしい」っておっしゃってて。それからもうひとり、十年来の友人にも言われて。周りの人が先にヴィレヴァンという可能性について思い至っていたんです。それを聞いて、そうだ、私の生まれた場所はヴィレヴァンだったんだ! って思って。

 川柳を詩歌の外に届けたいという気持ちがあります。川柳は短いし、前提知識もいらないので、本とか読まない人にも楽しんでもらえるんじゃないかなって思うんです。国語とか特に好きじゃないよ、って方に読んでほしい。『ふりょの星』は、帯をDr.ハインリッヒさん、装画を吉田戦車さんにお願いしたので、最初にファンの方が反応してくださいました。外に届いたかなって、嬉しかったですね。

―――私家版句集『捕遺』、私家版第二句集『ぺら』、ネットプリント「当たり」、川柳句会「こんとん」など、今まで川柳にはなかった活動も積極的にされていますね。

 川柳でやってる人が少ないから珍しく見えるかもしれないです。私家版作品集の制作やネットプリントは、詩歌の方々がされていますよね。私はもともと大学短歌会にいたので、周りがやってるからやるかあって、川柳に「輸入」しているんです。川柳って市場が小さいじゃないですか。本を出してみても、例えば短歌は総合誌がいくつもあるから、リマインドみたいに歌集の評が載って、それが歌集の宣伝になるみたいなことがあると思うんですね。川柳には総合誌がないので、リマインドは自分でやらなきゃいけない。でもだからこそ、自由にできてる部分は絶対にあると思うんです。

 それから川柳には賞もない。「賞で歌集が出せる」みたいなのが短歌にはありますよね。でも私は賞も何も獲ってないけど、本を出してもらえた。そういう、自由度の高さみたいなのが現時点の川柳にはある。その自由さを利用したトリッキーな活動みたいなものは、なにかしらしたいと思っています。

 『ぺら』は、(川柳人の)川合大祐さんが1001句も収録されている、すごい分厚い句集(『リバー・ワールド』書肆侃侃房)を出されたあとで。川合さんは多作な方で、私は数を作れないので、同じ土俵で戦ったらとても勝てない。だから、むっちゃ薄くて、むっちゃでかい句集を作ろうと思ったんです。駅に貼ってあるポスターを作ってる会社で作ったんですよ。

句集をめっちゃ出したい

――暮田さんが好きな、おすすめの川柳人を教えてください。

 人単位で「好き」ということが、川柳の場合は特になくて。好きな歌人や俳人はいるんですけど、川柳になると作品単位で好きなことが多いです。でもやっぱり、川柳に出会ったきっかけが小池正博さんだったので、最初に好きになった川柳人は小池さん。いろんなところで引用しているのは<はじめにピザのサイズがあった>。それから<気絶してあじさい色の展開図>は、好きなんだけど、どう読めばいいのかまったくわかんない(笑)。

 『はじめまして現代川柳』や『現代川柳の精鋭たち』(北宋社)から挙げるなら、加藤久子さんです。<ビニールの空を七枚贈られる><銀河から戻る廊下が濡れている>などがあります。それから渡辺隆夫さんの<サーカスをみんな愛してみんな死んだ>という句が好きです。短い言葉にまとめるということには暴力が伴うし、まして人生のことなんて、と思うんですけど。

――これからどのような句集を作っていきたいですか?

 まず川柳人の意識として、あんまりみんな句集を作らないっていうのがあるんです。川柳人は書き捨てみたいな。作ったとしても生涯に一冊、墓碑として作ります、みたいなのがあるらしいんですね。だから、めっちゃ出したら面白いと思って。自分でDIY的にやることと、出版社さんの力を借りてやれることの違いというか、区別が今回ありがたいことにわかったので、これからはどちらも並行してやっていきたいです。商業出版の句集である『ふりょの星』をベスト版のようなかたちで出せたことは、私にとってはよかった。私家版の句集で作品を発表しつつ、商業出版でベスト版をまとめる。そういうふうにできるのが理想です。