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「ジャカルタ・メソッド」書評 アメリカが展開した冷戦の正体

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月04日
ジャカルタ・メソッド 反共産主義十字軍と世界をつくりかえた虐殺作戦 著者:竹田 円 出版社:河出書房新社 ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ

ISBN: 9784309228495
発売⽇: 2022/04/18
サイズ: 20cm/413p

冷戦下に起きたインドネシア大虐殺の裏には、「ジャカルタ・メソッド」と呼ばれる、米国政府の共産主義者「絶滅」作戦があった−。機密解除された文書や膨大な資料、12か国での取材…

「ジャカルタ・メソッド」 [著]ヴィンセント・ベヴィンス

 一九五五年、インドネシアのバンドンでアジア・アフリカ会議が開催された。参加国の総人口は世界人口の半分以上を占めた。「人類史上はじめての、有色人種による大陸間会議」とインドネシア大統領のスカルノが開会式で宣言。戦後も続く欧米の植民地主義と人種主義を批判し、社会的正義の追求を訴えた。
 インドネシア共産党もスカルノを大筋で支持した。ソ連や中国のそれとは異なり、民族主義的で武装闘争を否定した大衆政党であった。スカルノは、白人に頼らない中立的な国家を目指したのである。
 反共を国是とするアメリカにとって、バンドン会議もスカルノも気に入らない存在だった。国務省の官僚たちは会議を「気取り屋有色人種の祭典」と揶揄(やゆ)した。反共主義的政治家とCIAはバンドンの精神とスカルノを崩壊させるべく、港湾都市アンボンを空爆したり、彼の評判を落とす画策をしたりしたが、ほとんど効き目がなかった。
 が、一九六五年、アメリカとパイプのある軍人スハルトが共産主義者の反乱を鎮圧するという体裁のクーデターに成功(九・三〇事件)。彼とその部下は「ゲルワニという婦人団体のメンバーが、裸になって踊りながら、将軍たちの手足を切り刻み、拷問し、性器を切断し、目をえぐり出し、その挙げ句に殺害した」とデマを流す。アメリカ政府はデマの拡散を助け、CIAは共産主義者の名簿を軍に渡し一網打尽の殺害を後押しした。結果、100万の人々が共産主義者だという理由で拷問され強姦(ごうかん)され殺害されたのである。「ジャカルタ」はアメリカが世界各地で繰り広げた反共作戦の隠語となっていく。
 筆者は、闇に葬られてきた上記の過程を、一〇年に及ぶ十二カ国の調査で明らかにした。壮絶な虐殺を生き抜いた被害者たちの生々しい声と、読んでいて心音が聞こえるほどの緊迫した筆致が暴く冷戦の正体に、読者は震撼(しんかん)するだろう。
    ◇
Vincent Bevins 1984年生まれ。ジャーナリスト。米ワシントン・ポスト紙の特派員として東南アジアを取材。