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『「予科練」戦友会の社会学』書評 「集団的想像力」から戦史に迫る

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月04日
「予科練」戦友会の社会学 戦争の記憶のかたち 著者:清水 亮 出版社:新曜社 ジャンル:外交・国際関係

ISBN: 9784788517615
発売⽇: 2022/03/31
サイズ: 22cm/254p

『「予科練」戦友会の社会学』 [著]清水亮

 「予科練」という語には、世代によって多様な意味が持たされている。戦後社会で、この語ほど当事者の思いと相反する位置付けをされた例は少ない。私自身、彼らから予科練にいたことは伏せていると何度も聞かされた。
 海軍飛行予科練習生という名のパイロット養成制度の10代の少年兵なのだが、1930(昭和5)年の第1期生79人から始まり、戦争末期には大量に選抜され、総数は約24万人に及ぶ。戦没者は約1万9千人にのぼると見られている。
 著者は、その戦友会(雄飛会)の会報記事などを丹念にたどった。戦友会は、慰霊碑や記念館などを自衛隊の駐屯地内に建設している。この関係の中に予科練の戦後がある、と読み取っているのであろう。
 本書は、二つの特徴を持つ。一つは予科練という組織の特質や位置付けを、資料と先行書を用いて整理したこと。二つに「予科練之(の)碑」の人物の銅像を論じつつ、「鬼気せまる集団的想像力」という語を用いて戦友会の心理的研究の一端を提示していることだ。
 この2点を背景に、著者は戦史の本質に向き合おうという姿勢を明確にしている。とはいえ、予科練の出身者の屈折した心理を見てきた私の世代には、戦友会の懇親会などで、なぜ今も「エリート海軍将官」に怒鳴られるのだろう、奇妙だなという疑問がある。それに対する回答は本書からは見出(みいだ)せない。
 学歴認定の問題に本書は力点を置く。予科練教程修了者が旧制中学5年卒業者と同等以上と認められたのは、64年である。「少年兵の軍学校に選抜された準エリートとしての地位達成」は、彼らの心理的な満足感に直結する。その半面、予科練の末期世代にはそういう意識はなく、戦友会に参加しない者もいる。この不参加組や拒否組の精緻(せいち)な分析が「集団的想像力」の広がりと対比されれば、著者の自負する「戦争社会学」の書たりうると思う。
    ◇
しみず・りょう 1991年生まれ。日本学術振興会特別研究員PD。論文に「日本における軍事社会学の受容」など。