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人と森林の歴史を解き明かす「森と木と建築の日本史」など田中大喜が選ぶ注目の新書2点

森と木と建築の日本史

 実感しにくくなっているが、森林なくして人の生活は成り立たない。海野聡『森と木と建築の日本史』(岩波新書・990円)は、先史時代以来の日本に暮らす人々と森林との関わりを通観し、人が物質的にも精神的にも森林の恵みを享受してきた歴史を説き明かす。

 森林から恵みを享受するからには当然保護もしてきたかのように思えるが、それは近世になって森林が持つ治水効果に着目してからのことだった。やがて利用と育成の均衡が図られるようになり、現代の持続可能な森林形成の取り組みへと繋(つな)がっていくが、この現代的課題も人と森林との関わりの長い歴史のなかの一齣(ひとこま)であることに気がつく。
★海野聡著 岩波新書・990円

インテリジェンス都市・江戸 江戸幕府の政治と情報システム

 古今東西、正確な情報の収集は国家・政権の命運を左右してきた。藤田覚『インテリジェンス都市・江戸 江戸幕府の政治と情報システム』(朝日新書・869円)は、江戸幕府の情報収集・管理の実態から、その中央集権的な政治体制に迫る。

 江戸幕府は情報収集のための専門的組織を持ち、その対象は国外の動向や諸藩の内情のみならず、幕臣の素行・身辺や江戸市中の景況にまで及んだことに驚かされる。翻って現代の各国政府も情報収集を進めているが、江戸幕府とは比較にならないほど進んだ技術で行っていることを想像すると、空恐ろしい思いになる。
★藤田覚著 朝日新書・869円=朝日新聞2022年6月4日掲載