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伊坂作品のユーモア、英語圏に足跡刻む 英ダガー賞・翻訳部門、受賞逃す

 英国推理作家協会(CWA)が優れた推理小説に贈る同協会賞(ダガー賞)が6月29日(日本時間30日)に発表された。伊坂幸太郎さん『マリアビートル』の英訳版『Bullet Train』(サム・マリッサ英訳)がノミネートされて注目された翻訳部門は、ドイツのシモーネ・ブッフホルツさん『Hotel Cartagena(ホテル・カルタヘナ)』(レイチェル・ウォード英訳、未邦訳)が受賞作に決まった。

 『マリアビートル』は東北新幹線の車内で殺し屋たちが巻き起こす騒動を描いた物語。受賞は逃したが、海外のミステリー事情に詳しいライターの杉江松恋さんは今回のノミネートについて「伊坂作品が英語圏で『発見』されるきっかけになるかもしれない」と話す。

 伊坂さんの作品は、まだ英訳が少ない。「伊坂さん独特のとぼけた味わいは、英語に翻訳されても十分伝わると思う」。『マリアビートル』はブラッド・ピットさん主演で映画化され、日本でも9月から公開予定だ。

 杉江さんによると、「そもそも日本のミステリー自体、英語圏ではあまり知られていない」という。ダガー賞は1955年に英国で創設。元々は翻訳作品も含めて選考の対象にしてきたが、2006年から翻訳部門が独立した。翻訳部門の歴代受賞作には、ピエール・ルメートルの『その女アレックス』やフレッド・ヴァルガスの『死者を起こせ』などがあり、ヨーロッパ圏の作品が受賞することが多い。これまで、日本の作品からは16年に横山秀夫さん『64(ロクヨン)』が、19年に東野圭吾さん『新参者』がノミネートされながら受賞を逃していた。

 ダガー賞に並ぶミステリーの大きな文学賞、米エドガー賞では、過去に桐野夏生さん『OUT』、湊かなえさん『贖罪(しょくざい)』などがノミネートされた。杉江さんが「スラップスティック要素のあるクライムコメディー」と評する『マリアビートル』以外のいずれにも共通するのは、シリアスな内容の作品だったことだ。

 「伊坂作品のユーモアは、これまで英語圏で紹介されてきた日本のミステリーにはなかったもの。これを機に日本のミステリーの幅の広さが認識されていくのではないか」と杉江さんは話している。(興野優平)=朝日新聞2022年7月6日掲載