今年もまもなく8月15日を迎えるにあたり、アジア・太平洋戦争の実態に迫った2冊を取り上げる。
『大東亜共栄圏』
安達宏昭『大東亜共栄圏』(中公新書・968円)は、日本が戦争の遂行目的として掲げた「大東亜共栄圏の建設」という、自らが盟主となって創ろうとした独善的な経済自給圏の内実を明らかにする。脆弱(ぜいじゃく)な経済力と分立的な国家機構を持った戦前の日本には、アジアの広域に及ぶ経済自給圏の建設は無謀だったにもかかわらず強行し、圏内の東アジア・東南アジア諸地域に甚大な被害を与えた。かつての日本が行った、この自己中心的な振る舞いの記憶と事実を消すことはできないし、また忘れてもならない。
★安達宏昭著 中公新書・968円
『仏教の大東亜戦争』
鵜飼秀徳『仏教の大東亜戦争』(文春新書・1210円)は、アジア・太平洋戦争時の日本仏教が物質的にも精神的にも積極的に戦争に加担した責任を明らかにする。著者は文献の博捜のうえに多くの寺院に足を運んで取材し、さらに戦争体験者の僧侶への聞き取りを行うことで、軍用機・軍艦の献納や梵鐘(ぼんしょう)・仏具の供出、従軍僧の戦闘参加の容認、青少年に対する国粋主義思想の教育など、仏教界と戦争との関わりの生々しい実態を浮き彫りにする。本書は戦争の深層だけでなく、国家と宗教との関係の暗部をも照らし出す。
★鵜飼秀徳著 文春新書・1210円=朝日新聞2022年8月13掲載