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ドラマ「すべて忘れてしまうから」Charaさんインタビュー 本一冊で、人は変わることもある

Charaさん

強すぎないけど強い、悪すぎないけど悪い

――原作は、良いことも悪いこともいずれすべて忘れてしまうからこそ、思い出の数々を断片的回顧録として綴っている燃え殻さん初のエッセイ集です。Charaさんは読まれましたか。

 ドラマの撮影が始まる前に少しだけ読みました。脚本が全然違うものになっている場合もありますし、その差も意識してしまうので、事前にあまり原作は読まなくて。撮影現場では、監督の指示に従いたいというのが私のスタンスです。わずかな経験ですが、以前、岩井俊二監督の作品に出演したときにそう感じました。

 ただ、撮影が終わってから、原作をちゃんと読みました。燃え殻さんは、独自の視点で着目した心の中にあるうまく伝えられない思いを言葉に落とし込んでいて、読みやすいです。すごくチャーミングな文章ですよね。エッセイに書かれているものは、日常的に誰もが思い当たるようなエピソードでもあって、面白い気づきで言葉にしていて。

 強すぎないけど強い、悪すぎないけど悪いというか(笑)。それが燃え殻さんの才能なんでしょうね。「燃え殻」という名前からして、(音楽ユニット)キリンジの(元メンバーで現在シンガーソングライターの堀込泰行さんの「馬の骨」名義の)曲名だから、音楽が好きな方なのだろうなと思いました。

ヘアメイク:杉田和人(POOL)、スタイリスト:山本マナ

――岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」(1996年公開)以来、今回、26年ぶりに映像作品にご出演された理由をお聞かせください。

 音楽活動をしっかりと行うのには時間が限られるなか、タイミング的にちょうどいい頃合いにこのドラマのお話をいただいて、「Charaさんのままで、そのままでいいです」ということだったので、参加させていただきました。

――オファーされてから参加するまでに葛藤はありましたか。

 あったらできないですね(笑)。ただ、私自身、音楽活動において日々いろいろな人たちと共演や共作をしています。今回はドラマということで、音楽畑と映像畑で違うとはいえ、クリエイティブな仕事という意味において同じですよね。私はほぼバーカウンターの中から出ませんが、こだわりのセットも素晴らしくて、そこに入るだけで、演じているわけではなくとも自然とカオルになれるようにスタッフの方々がしてくださいました。

全身お洒落をしています

――Charaさん演じるBar 灯台の店主カオルは、仕事や恋人のことまで話す阿部さん演じる主人公“M”の相談役でもあり、ふたりの掛け合いも面白いです。そんなカオルは毎回、髪型や衣装が変化して、お洒落なCharaさんの姿も観られますね。

 他の方々は毎回衣装が一緒なのに、カオルは「お洒落が好き」という設定なので、毎回ネイルの色も髪型も変わります。バーカウンターの中にいるから、上半身しか見えないですが、一応、全身お洒落をしているんですよ。

© Moegara, FUSOSHA 2020

――共演された阿部さん、Bar灯台の料理人・フクオ役の宮藤官九郎さんの印象も教えてください。

 阿部さんは近い世代で、本当にかっこいい方。阿部さんをはじめみなさん演技のプロの方々ですし、迷惑はかけられないと思っていました。宮藤さんは、彼自身がミュージシャンでもありますし、演出する側になることもありますし。話しやすくて、面白い、雰囲気のある方でした。

© Moegara, FUSOSHA 2020

――ドラマのナレーションもCharaさんがご担当されていますね。

 そうなんです。最初にこのお話をするために監督たちが会いに来てくださったときに、ナレーションはすごく好きでやりたいものの、「思ったより声小さいですよ」とお伝えして(笑)。でも、「舞台じゃないのでそんな大きな声は必要ないです」と言われて、不安要素はなくなりました。

デビュー30周年を迎えて

――Charaさんはデビュー30周年を迎えられましたが、振り返ってみていかがでしょうか。

 子どもが大きくなって、いまは熟年期という気持ちでいます(笑)。あとは好きなことだけやればいいかなと。でも、自分の役割はあると思っていて、デビューのときから、そのときできることを一生懸命やるという点はブレていないんじゃないでしょうか。所属するレコード会社も移籍したので、引っ越ししたような感覚。いまレコーディングしていて、新しい曲もリリースする予定です。

――新曲も楽しみにしています。Charaさんは、2021年12月にデビュー30年の軌跡を辿るアーティストブック『Chara's Time Machine Book』(小学館)を発売されましたね。カルチャーやファッションの変遷を追体験することもできる内容です。

 どれも素晴らしく、良い写真ばかりで、選ぶのが大変でした。「おうちにこれあったらいいな」というちょうど良いサイズです。特別に娘(女優のSUMIREさん)と息子(俳優の佐藤緋美さん)からの、私へのサプライズのシークレットページがあったり、浅野忠信さんもイラストを描いてくださったり。愛に満ちあふれた本になりました。

――すごく素敵ですね。自著はおうちに飾っていらっしゃったりしますか。

 リビングの隅の壁に、毎年、私が撮った家族や親友との写真を飾るコーナーがあって。そのコーナーの横に数冊、好きな写真集やいろいろな種類の本を置く場所があるので、そこに置いています。シーズンごとに本を入れかえていますが、実は、燃え殻さんの原作もそこに置いていますよ。掃除の合間などに何かしらその中から本を読むこともありますし、キッチンにも料理本を置いてあって、料理をするときにパッと読めるようにしています。

新しいことがパワーに

――今回、ドラマにご出演されましたが、この経験が音楽活動に還元されたり、影響を与えたりすることはありますか。

 新しいことをやると、知らないうちに、自分自身にもパワーをもらっているはずなんですよ。筋肉運動をしたというか、今まで使っていない筋肉を使うわけですから、それはたぶん影響があると思います。こういう機会がなかったら、燃え殻さんの書籍も読まなかったかもしれないですし、読んだおかげで考え方や物の見方も新しく知ることができた。それは、本一冊といえども影響力があって、人は変わることもあるということだと思います。

――Charaさんの出された本や音楽も、影響を与えることがあるかもしれません。

 そうですね。音楽は、その人の歩んできた人生において、通り過ぎてみるとつらかったことも懐かしくなって、「一生懸命恋したな」という切なさも全部優しい雰囲気のものにする力があるから、私の作った音楽でほっこりしてもらえたらうれしいです。受け取ってくださる人たちにも、それぞれのストーリーがありますよね。本も音楽もドラマも、思い思いにいろいろな楽しみ方をしてほしいですね。