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「きらわれ虫の真実」書評 撃退する前に観察してみようか

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月24日
きらわれ虫の真実 なぜ、ヤツらはやってくるのか 著者:谷本 雄治 出版社:太郎次郎社エディタス ジャンル:動物学

ISBN: 9784811808550
発売⽇: 2022/08/05
サイズ: 19cm/205p

「きらわれ虫の真実」 [著]谷本雄治 [イラスト]コハラアキコ

 秋の夜長に虫の音が心地いい。この欧米にはない「虫をめでる文化」を持つ日本で、あえて敬遠されがちな30種を選び、光を当てる挑戦的な1冊。
 カメムシに始まりフナムシで終わるラインアップに思慮の跡がうかがえる。一度ぐらいは見たことがあっても、最初からゴキブリのような「ど真ん中の直球」でないところがいい。
 蚊やハエが順調にリスト入りを果たしたのに、ダニやノミは地味すぎるためか落選だ。かと思いきや、一発のある助っ人のようにヘビやクラゲが後半に登場する。これを「虫」に入れた理由をなるほどと思うか、苦しいと感じるかは分かれるところだろう。
 テントウムシはともかくカマキリが出てくるのは異議ありとしたい。威嚇するように見つめてきても、攻撃してくるわけでも毒があるわけでもない。むしろ共存共栄できそうだ。
 という具合に突っ込みを入れつつ、うんちくにうなずき、イラストに添えられたコメントにもひざを打ちながら一気に読んだ。
 私の「推し」は最後の二つ前に出てくるカマドウマ。「不気味なオーラが漂う虫」という通り、子どものころ目撃した衝撃を忘れない。体の部分の「プリプリしたエビ感」という描写が言い得て妙だ。昆虫食の主役に躍り出る潜在力があるかもしれないのに研究すら進んでいないというから残念でならない。
 なお「害虫」「益虫」という分類が、人間の側の一方的な都合によるものなのは周知の通りだ。最近はなんとなく気味が悪いというだけの「不快害虫」の枠もあるらしい。
 人間の生活圏を離れれば彼らにも生態系のなかで果たしている役割がきちんとある。そこにも触れつつ、押しつけがましさはない。リアルな写真もあって虫嫌いの人にはお薦めしないが、駆除や撃退、退避の前に、少しは観察してみようかという寛容な気持ちにしてくれる(はずだ)。
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たにもと・ゆうじ 1953年生まれ。「プチ生物研究家」として活動。著書に『週末ナチュラリストのすすめ』など。