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包装紙、保冷剤、空き箱 津村記久子

 お中元を包んでいた包装紙でブックカバーを作って、かなり重宝している。折り目があったりしわが寄ったりしているけれども、ちょうどいい厚さだったのだ。文庫本と単行本併せて四枚分ある。ブックカバーが手に入ってうれしかったので、八月はいつもよりよく本を読んだ。

 送られてくる何かに付属していた物を再利用したケースで言うと、通販でお肉を注文した時に中に入っていた大きな保冷剤も便利なのでずっと使っている。おにぎりを作るために炊いたご飯の粗熱を取ったり、お茶を急冷したり、冷凍庫の中でアイスクリームの近くに置いて、開閉によって入り込んでくる夏の外気からアイスクリームを守ったりしている。控えめに言っても、大活躍している。そういえば、いったんマグカップに注いだ作りたてのお茶を冷やすために水を張って使っている500mlの容器も、元はといえばアイスクリームが入っていた。

 べつに節約をしているというわけではなくて、たまたまそこにあった物を状況に応じて使っているうちにそういうことになっていた。包装紙や保冷剤や容器という中身についてきた付属物が、あ、いいっすよ、それできるからやりますよ、という様子で生活に馴染(なじ)んできてくれた感じだ。そういう気安い態度に、何となく親しみを覚える。自分もそんなふうだったらいいなと思う。

 何かの付属物として作り出されて、気が付いたらその何か自体よりも人間の生活の中に残って使われている物。そういう物の展示会が密(ひそ)かに開かれていないかなあと思う。わたしも肉に付いてきた保冷剤で参加したい。もういろんなことをしてくれますよこの保冷剤は、夏場はこれで乗り切りましたよ、と自慢するつもりだ。

 他の人は何で参加してくるんだろうとも思う。やっぱりクッキーだとかの缶が多いだろうか。それぞれ、中身を食べ終わった缶に何を入れているのか見せて欲しいとも思う。いろんな日常の物語があるだろう=朝日新聞2022年9月17日掲載