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河出書房新社「スピン/spin」創刊 このご時世、あえて「紙」の新雑誌

「スピン/spin」編集人の尾形龍太郎さん

専門商社とコラボ 表紙・目次は毎号特別な紙

 作家の恩田陸さんが命名した新雑誌「スピン/spin」。出版業界の専門用語で、本についているしおりのひもを意味する。「せわしなく流れる日常に挟まり、日々に少しの『変化・回転(スピン)』をもたらす」というコンセプトだ。

 27日発売の創刊号では恩田さんのほか、藤沢周さんから若手の佐原ひかりさん、ミュージシャンの尾崎世界観さんまで多彩な執筆陣による連載が始まる。人気声優・斉藤壮馬さんの初の小説や、エンタメの大御所・皆川博子さんらのショートショートも掲載。「1人を目的に買ったら知らない著者にも出会えるようにしたかった」と、編集人の尾形龍太郎さん(47)は言う。

 純文学の文芸誌「文芸」の元編集長。長年所属した「文芸」編集部を2019年に離れ、書籍編集を手がけるかたわら、純文学の枠組みを越えた新媒体の可能性を探り始めた。
 選択肢は電子書籍か、ウェブか、紙か。「三つが共存している過渡期の今だからこそ、紙のいい所も悪い所も改めて考えておきたかった」。社内であがる疑問の声を説得し、26年の創業140周年に向けたカウントダウン企画として、16号限定で走り出した。

 表の顔はオールジャンルの雑誌、だが裏テーマはまさしく「紙」だ。「この時代にあえて紙をやるなら、その意味を徹底的に考えなくちゃいけない」。紙の専門商社「竹尾」とコラボし、表紙と目次には毎号違う特別な紙を使うことにした。創刊号の目次と表紙の紙はすでに生産終了しており、目次の紙は初版1万部を刷り終えて在庫もほぼ尽きたという。

「電子書籍派がおもしろがる流れ生まれるかも」

 自身は電子書籍は読まず「紙の本にめちゃくちゃ思い入れがある」と尾形さん。「紙も書体も、全部に名前があるんですよ。印刷する文字の大きさもレイアウトも、一つ一つすべて計算ずくで。なんて素晴らしいんだろうって」。連載「紙の話」「紙のなまえ」では、紙にまつわるエッセーや少しマニアックな情報を紹介していく。「普段は電子書籍を読んでいる人たちが、レトロさを含めて紙をおもしろがる流れも、もしかしたら生まれるかも」

 紙代もインク代も値上がりし、紙の厳しさは身にしみている。「紙を守れ」と声高に叫ぶつもりはない。ただ、「紙には名前があるよとか、白い紙にもいろんな白があるんだよとか。そういうことを丁寧に、一冊一冊に込めていけば、それだけで読者の見える世界も変わるんじゃないか」(田中ゑれ奈)=朝日新聞2022年9月28日掲載