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中村文孝、小田光雄「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」 本の流通、観察続けた歴史の証言

『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』

 とんでもない本を手に取ってしまった。
 『リブロが本屋であったころ 出版人に聞く〈4〉』の中村文孝氏と、『古本探究』『出版状況クロニクル』などのシリーズを手掛けた小田光雄氏。昨年の『全国に30万ある「自治会」って何だ!』に続く対談本だ。

 ともに70歳を過ぎた両氏は、1970年代から出版の世界にあって、書籍の流通の推移を見守ってきた。作家として、あるいは消費者としてだけ本の世界を見るのではなく、営業、販路、取次も含めた本の流通の動きを観察し続けた結果、今回のような歴史証言の書が成った。
 その切り口が「図書館」である。
 図書館の数は70年代からの半世紀で、4倍近くになったという。
 「一館あたりの蔵書数も4倍になっているから、大型化もしているね。登録者数と貸出総数はその倍の8倍近くになっている。(略)でも一館あたりの専任職員数は半分になってしまった。これは何を意味しているのだろう」(中村氏)

 データから読み解いたこの事実の背景と疑問の答えが、本書を読むと明らかになる。
 99年の書店数は2万2296店だったが、2010年には1万5314店になり、その後も減り続けている。
 また、書籍推定販売部数より、図書館の個人貸出冊数の方が多くなった。そして、今後もこの差は開くと予想される。
 駅前から街の書店が消えていった光景がよぎる読者も多いだろう。いまや新刊本は図書館で複本を含めて待機が続き、情報の検索は図書館ではなくグーグル、本の購入という書店の機能はアマゾンをはじめとしたネット購入で可能であり、図書館の役割は新刊本の「公営無料貸本屋」のようにもなっている。

 しかしこうなった理由は、図書館流通センター(TRC)の開発したMARC(書誌情報をデータ化したもの)のあまりにも優れた利便性にあり、取次が新刊の販売先として書店と並列して図書館を設定したからである。
 ただし、悪いのはTRCではない。むしろTRCのような企業が出てくるのは時間の問題だっただけで、図書館側がその存在意義を再定義し損ねた部分もある。職員は嘱託で済ませ雇い止めが起こり、専門性を育める環境ではないことも「公営無料貸本屋」化に拍車をかける。
 おしゃれな外観で、カフェも併設し、駐車場も大きい図書館で、新刊の雑誌や書籍をお茶を飲みながら読める。そんな図書館が増殖した背景には、本の生態系の変容があるという事実を知れば、戦慄(せんりつ)せずにはいられない。=朝日新聞2022年10月15日掲載

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 論創社・2200円。なかむら・ふみたか氏は1950年生まれ、おだ・みつお氏は51年生まれ。ともに書店や出版社の仕事に関わり、出版業界を定点観測してきた。