噺家(はなしか)の柳家小三治さんが世を去って1年。お別れの会などはなく、「あまり俺のことを語るな」と言っていた師匠の思いをくんで、弟子たちも多くを語らなかった。
橘蓮二編・写真『噺家 小三治』は、師匠を撮り続けた写真家の橘さんが、弟子の柳家三三(さんざ)さんに話を聞いた。中学2年のとき、弟子入りに行くと、4時間かけて断られたという。「最初に『だめ』という主文があってから、その判決理由みたいな(笑)」。そして「うちの師匠の落語は、噺の中のフィクションではあるのですが、触ると質感がある、触れるものがあるんです」と話す。
元マネジャーの倉田美紀さんは、師匠との初対面をこう振り返る。
「落語、聴いたことある?」
「いや、ないです」
「『笑点』観(み)たことある?」
「いえ、ないです」
「いいね!」
次第に信頼が生まれ、「師匠はいい高座ができるとなぜか『今日もよく頑張ったな』と、私やお弟子さんをほめてくれました」と語る。
古今亭志ん朝や立川談志と比べ、小三治を描く落語評論家・広瀬和生さんの文章もある。橘さんの写真は師匠の「研ぎ澄まされた世界観」と「心がほどけてゆく柔らかな優しい一面」をとらえている。(石田祐樹)=朝日新聞2022年10月15日掲載