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「教養としての決済」書評 「支払い」の今昔 山盛りで紹介

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2022年10月22日
教養としての決済 著者: 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:経済

ISBN: 9784492681497
発売⽇: 2022/08/26
サイズ: 19cm/417,14p

「教養としての決済」 [著]G・レイブラント、N・デ・テラン

 今の世の中、ヒトは常に「支払い」ながら生活している。消費者としてモノを買うだけでなく、事業者として仕入れや売掛(うりかけ)に関わることもあるだろう。「何かしようとすれば必ずついて回るものは?」と問われれば、一昔前なら「お金」と答えておけばよかったが、今は「支払い」だ。本書を読めばこの違いを学べる。
 そもそもモノを「買う」という行為はなぜ成立するのかから始まり、もはや古典的となったクレジットカードや小切手、現金取引の説明には手数料ビジネスの妙があわさる。ペイパル、スマートフォン、ソフト同士をつなぐAPIといったイノベーション、即時決済システムの重要性、手軽になった国際通販、暗号資産やフィンテックなど、現代金融システムについての話題が「どうやって支払うか」という観点から山盛りで紹介されている。
 とくに2010年代以降の新しい技術についても言及があるのがありがたい。しかも、バンク・オブ・アメリカがクレジットカード業に進出したときの(当事者には申し訳ないが)抱腹絶倒のエピソードや、イギリスで日々起こっていた送金ミス事例などが入り混じり、ここまでクスクス笑いながら読み進める金融の本は珍しいだろう。その一方で、一部のロシア系銀行の「国際銀行間通信協会(SWIFT)」排除を巡って明らかになったように、現下進行している金融戦争ともいうべき国際決済ネットワーク間の争いにも冷静に目を配っている。
 読んだからといって何かトクするわけではない。金融取引の実践に役立つわけでもなく、知人に自慢できるくらいが関の山だという意味でも、確かに「教養」には違いない。換言すれば単に知識を仕入れる以上の、いろいろな読み方もできる。たとえば、評者には債務貨幣の考え方をここまでわかりやすく説明しているのは新鮮で、現代貨幣論の入門書として読んでみるのもまた一興だと思った。
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Gottfried Leibbrandt 元決済ネットワークCEO▽Natasha de Terán 元ジャーナリスト。