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福音館書店70周年「こどもに聞かせる一日一話」 ぐりとぐら、だるまちゃんの幻のお話など30話を厳選

絵本化できなかっただるまちゃん

――『こどもに聞かせる一日一話』は、「ぐりとぐら」や「だるまちゃん」、「おばけかぞく」や「ぐるんぱ」など、絵本で親しんだシリーズがたくさん掲載されていて、とても贅沢な一冊ですね。

 この本に載っているのは、来年で70周年を迎える歴代の「母の友」に掲載されてきた作品です。「母の友」は、初代編集長の松居直が、幼い子どもと一緒に生きるヒントと物語の楽しさを届けたいと創刊した月刊誌で、「こどもに聞かせる一日一話」はお母さんのお役に立てたらと企画したものなんですよ。創刊当時は、テレビが普及する前の時代です。子どもは「ねえ、何かお話してよ」と、おとなによくせがんでいたそうです。とはいえ、今も昔も親の毎日は忙しい。なかなかぱっと応えてあげられない。そんなとき、ちょうどいい長さのおもしろい童話が毎月30話載っていたら……と考えたんですね。「一日一話」は好評を博しますが、1960年代により長めの童話を載せることが増え、一度姿を消します。代わりに生まれた童話コーナーは今に至るまで毎月あり、ロングセラーで愛され続ける「ぐりとぐら」をはじめ、その他たくさんのお話がそこから生まれました。ちなみに「一日一話」企画は、2003年に復活して以来、ほぼ毎年、11月号で年に一度実施しています。

――『こどもに聞かせる一日一話』の中で、加古里子さんの「だるまちゃんとうらしまちゃん」は、まだ絵がラフの状態で掲載してあって驚きました。

 これは加古さんの没後に掲載させていただいた作品です。加古さんのご長女、鈴木万里さんが「絵のラフはあるけれど原画ができていない作品がある」とご連絡をくださったのです。絵本としての刊行は難しくても、「母の友」、つまり雑誌での掲載だったら……と考え、ラフ画をそのまま掲載させていただきました。加古さんは「一日一話」にも最晩年までご寄稿くださり(単行本『くもとり山のイノシシびょういん』として一冊にまとまっています)、創作意欲を失わない姿勢に心が震えました。

 原稿を取りに行ったとき、その絵はコピー紙の裏紙に描いてありました。ふと裏返すと、何年か前の「母の友」の記事、加古さんと松居の対談が載っていたんですよ。この取材は私を含め、当時の編集部全員で企画した思い出深い対談でした。この校正紙をずっと持っていてくださったことに目頭が熱くなりました。

対談記事の校正紙の裏に描かれたラフ

加古さん直筆の原稿

――この本に掲載されている「ぐりとぐらのピクニック」も絵本として単行本化されていないものなんですね。絵もモノクロで、懐かしい感じがします。

 このお話は、1964年4月号の「母の友」で掲載されたものです。絵を描かれた山脇百合子さんは、当時の旧姓の大村で活動されていました。2013年にも再掲載されましたが、雑誌は一定期間しか売られないものなので、こうやって残せることは嬉しいですね。

 ばばばあちゃんのお話も、今の絵本を知っている方からすると「絵が違う!」と驚かれます。これも1977年12月に掲載されたもので、初期の絵は頭にスカーフを巻いたおばあちゃんだったんですよ。

右が1964年、左が2013年のもの。初掲では手描きの題字でグリとグラがカタカナになっている

教訓より心を動かす楽しい作品を残したい

――掲載するお話は、どんなふうに選ばれたのですか?

 創刊号からの膨大な数から30話を選ぶのは、とても大変な作業でした。もともと「母の友」に掲載されているお話は、教訓的なものよりも心を動かす楽しいものというコンセプトがあるので、昔のものも含めて、どれもとてもおもしろいです。でも、ある書店員さんに「今の子どもたちが楽しめる本にしてね」と言われました。つまり、1950年代ぐらいの話もおもしろいのだけれど、たとえば「おかあさま」という言葉遣いなど、今の子にはちょっと耳にひっかかる言葉がある場合もあったのですね。今の子どもたちの心にすっと届く物語を集めよう。さまざまな人から意見をうかがいながら、編集部も営業部も総動員で話し合いました。

 まず50~60話にしぼってから、全部声に出して読んでいくんです。声にしやすく、耳で聞いて楽しいものを選びました。また、おやすみ前のひとときに読む方が多いので、眠りやあくびの話を随所に入れました。語り継がれている昔話も一定数入れるようにしています。校了して改めて読んでみると、「ああ、みんないいお話だなあ」としみじみ感じました。

最後の30話目は『ぐるんぱのようちえん』のその後のお話

――どろぼうの子どもの話や、誰も最後まで読めない絵本の話、ドアをノックする右足くんの話など、大人が読んでも楽しくて、思わず子どもに「ちょっと聞いて、聞いて」と話したくなるお話がたくさんありました。「こどもに聞かせる」というタイトルがついていますが、読まされるというより一緒に楽しめるお話ばかりだと感じます。

 ありがとうございます。耳で聞くお話なので、楽しんでいただけるのは3歳から6歳ぐらいのお子さんが一番多いかなと思いますが、小学生の朝の読書に使っていただくのもいいのではと思いますし、大人の方からも「読んで感動した」と言ってもらっているので幅広い世代に気軽に楽しんでいただきたいです。今回仕事として、お話を選ぶために大人同士で読み語りをしましたが、その後、お話の文章を目で読んでいると、読んでくれた人の声が頭の中で響くんですよ。耳でお話を聞くって、やっぱり心に残るものですね。

 本の装丁も、親子で寝ながらでも読めるように、なるべく軽く、コンパクトにして、カバーをつけない仕様にしました。明るい表紙なので汚れるとは思うんですが、そうやって汚れながら家庭で馴染ませていくのもいいなと自分は思うんです。これは実体験なのですが、我が子が赤ちゃんの頃にガジガジかじった跡のある絵本を見ると、当時の子どもの姿がすごくリアルに脳裏に浮かぶんですよね。ああ、あの頃は小さかったなあって。ずっと思い出に残るような、その家庭だけの一冊になってくれたらいいな、と思います。