「チャンス はてしない戦争をのがれて」
ポーランドに生まれアメリカで絵本作家になったシュルヴィッツは、幼い頃ワルシャワにあった家をドイツ軍の爆撃で失い、家族とともに旧ソ連国内、後にはヨーロッパを転々とさまよう。文章と絵からは、その旅が戦争、飢え、病、寒さ、迫害の連続で、死と隣り合わせだったことが伝わってくる。「おとうさんのちず」に描かれていた家族関係も詳細に語られているし、様々な困難を乗りこえてきたからこそ「よあけ」のようなさわやかで美しい絵本を描けるようになったことも、うかがい知れる。
思えば、ガアグ、センダック、レイ夫妻、八島太郎、そして彼のような海外にルーツをもつ画家が、アメリカの絵本の豊かな多様性を生み出してきたのだ。(ユリ・シュルヴィッツ作、原田勝訳、小学館、1760円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】
「ウマと話すための7つのひみつ」
動物と話せたらいいなと願う子どもたちに、ウマと暮らすために与那国島に移住した作者が、そっと耳打ちするように伝える「馬語」のひみつ。耳や鼻や目、脚や尻尾の動きが語ることば。心地よい距離やリズムも、馬語です。一見素朴な線画の表情は豊かで、ウマを見つめる作者のまなざしを読者と共有します。7つ目のひみつは「ウマから馬語で話しかけてもらえる(かもしれない)」方法。ゆっくり待つ時間のよろこび。ヒトが他の動物たちと地球で暮らしてゆくための大切な時間について考えさせられます。(河田桟文・絵、偕成社、1430円、小学校低学年から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「千に染める古の色」
平安時代が舞台の物語。右大臣の娘として生まれた千古(ちふる)は13歳となり成人の儀式である「裳着(もぎ)」の日が近づいていた。それまでは姫らしくしていなければならず、外出することも禁じられ退屈していた。ある時、千古は季節の移り変わりを身につけるものに取り入れた「かさねの色目」に興味を持ち、その色がどんな植物で染められているのかを確かめようと行動に移す。大切に育てられてきた姫がしきたりを破り、自らの思いを遂げようとする姿がまぶしい。(久保田香里著、紫昏たう絵、アリス館、1540円、中学生から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】=朝日新聞2022年10月29日掲載