二〇一四年から、新宿のフォトグラファーズギャラリーで本書と同タイトルの展覧会を何度か見た。二つの小さな展示室には、それぞれ3~5点のプリント。人気がない雪景色を目にして、最初は被災地の写真かと思う。でも、それは北海道の、あるいは震災前のどこかの写真だと、同じ部屋に置かれた小冊子のキャプションで知る。
いとも簡単に、写真のなかの世界に吸い込まれてしまう。その場にいるみたいに静寂の音を聞く。風や雪を身体に浴びて立ち尽くしたまま、目の前の風景を眺めている気持ちになる。一九九九年を起点とする本書の写真群は、北海道から沖縄まで場所を変え、カメラをネガからデジタルに変えて撮影されてもなお、同じ雰囲気を湛(たた)えている。写真家が費やした膨大な時間と歩いた距離を慮(おもんぱか)る。「意味がくじけ」、「言葉がつまずく場所」の写真にわたしは安堵(あんど)する。人知れずそこにある、ということへの憧れを、ページを繰りながら確かめる、夢見心地で。=朝日新聞2022年11月5日掲載