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「死に方がわからない」書評 独身、子なし 望む道筋をつける

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2022年11月12日
死に方がわからない 著者:門賀美央子 出版社:双葉社 ジャンル:家事・暮らし

ISBN: 9784575317428
発売⽇: 2022/09/15
サイズ: 19cm/299p

「死に方がわからない」 [著]門賀美央子

 「きれいサッパリ死んでいく」ことは、すでに日本では至難の業である。では、そんな環境下で私の望む死は達成されるのか? 本書はこのことを考え抜く。
 この問いを一人称で考えるに当たり、著者のプロファイルが、独身、子なし、兄弟姉妹なしとなかなかにキビシイ。なぜキビシイかというと、死に際する意思決定及び対応の代理は親族に限るという法的拘束が頑(かたくな)にあるからだ。
 でもそんな著者がもし、望む死に至る道筋を明確にすることができたのなら?
 それはもはや万人にとってのマニュアルである。さあ、頁(ページ)を捲(めく)ってみよう。
 まず著者は、絶対に望まない状態を明確にする。(1)死後、腐って発見されるのは嫌だ。(2)自発的に動けず意思表明もできない状態で生き続けるのは嫌だ。
 (1)は割とあっさりクリアされる。LINEを使った無料の安否確認見守りサービスが存在するからだ。
 他方、(2)は難しい。延命処置はもういらないと判断できる身体状況はいかなるものか。仮に判断をし、書面に残したとしても、外出先でバッタリ倒れ、それを見つけてもらえなかったらどうしたらいいのか。考え出すとキリがない。
 とはいえ、これにもある程度の道筋をつけて著者は先に進む。遺体。スマホにある個人データ。遺品。これらは死後どうなるのか? 身も蓋(ふた)もないが、これらはお金で解決できることが判明する。
 でも、お金がなかったら? 金ナシを自負する著者は、ここでファイナンシャルプランナーに相談を仰ぐのだ。
 「嫌なことを避ける」という平明な視点から、著者は社会の仕組みを調べ上げる。それは自(おの)ずから自身の価値と人生のあり方を明瞭にすることに彼女を導く。
 「家族がいるから必要ない」。そう胸を張るあなたこそ、この本を読むべきです。社会を知ることは己を知ることでもあるのだから。
    ◇
もんが・みおこ 1971年生まれ。文筆家。著書に『ときめく御仏図鑑』『文豪の死に様』など。