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「新しいアートのかたち」書評 価値の源泉は古典的美術と共通

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2022年11月12日
新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか (平凡社新書) 著者:施井 泰平 出版社:平凡社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784582860122
発売⽇: 2022/09/20
サイズ: 18cm/267p

「新しいアートのかたち」 [著]施井泰平

 「NFT」という言葉を盛んに聞くようになったのは2021年のこと。美術の世界では、インターネット上だけに存在するデジタルデータの「NFTアート」が同年、6940万ドル(当時約75億円)で落札され、ちまたを驚愕(きょうがく)させた。このような時事的な話題の先行から、とかくNFTアートは投機やバブルと結びつけられて紹介されることが多い。そういう部分もあるだろう。だが、NFT+アートの本当の可能性はそれだけでは見えてこない。
 本書は、みずからアーティストでもありNFTアートの先駆者として起業に取り組んできた著者が、なによりNFTアートは「美術としてどのような意味を持つのか」について、わかりやすく説いた一冊だ。
 そもそもNFT(Non―Fungible Token=非代替性トークン)とは「インターネット上にあるデータと紐(ひも)づいて、『証明書』のような役割を果たす」。つまり、本来いくらでも複製可能なはずのデジタルデータに唯一性を付与するのだ。
 ところで美術作品は、古来その唯一性=オリジナリティーを価値の源泉にしてきた。世界にひとつしかない絵画や彫刻をひと目でも見ようと美術館に長蛇の列ができるのも、オークションで一枚の絵が目の飛び出るほどの値段で取引されるのも、ひとえにそのことを前提とする。同様にNFTも世界でいつ、どこにでもネット上で存在しうるデジタルデータの作品に、他に替えがたい価値を与えることができる。
 NFTアートは、最先端のようでいて、この意味では古典的と言ってよい特性を持つ。ただし、最新の技術を駆使したまったく「新しいアートのかたち」であることにも変わりはない。
 優れた美術が持つ普遍性と革新性を同時に備える「NFTアートは何を変えるか」――著者は本書を通じ、この二面性が持つ未知の可能性について一貫して唱える。
    ◇
しい・たいへい 1977年生まれ。現代美術家、起業家。東大院在学中にアート関連会社「スタートバーン」を起業。