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「ファーザー・クリスマス」など絵本原作作品も配信! 映画で広がるこどもの世界「こども映画プラス」

「ファーザー・クリスマス」より ©Blooming Productions Ltd 1991,2020

映画を通して多様な世界をこどもたちに届けたい

――立ち上げのきっかけは、ご自身の映画体験からきているそうですね。

 私はこどもの頃からいろんな映画を見て育ち、映画の中で様々な国の文化や歴史、生活スタイルや考え方の違いに触れてきました。その経験は私の人生に大きな影響を与えましたし、幸い映画の仕事につくことができ、さらに世界が広がりました。今のこどもたちに人気の映画は、テレビシリーズの映画化が多く、もちろん、その中には優れた作品もたくさんありますが、多様性という面では少し欠けているような気がして、もっといろんな作品を見てもらえたらいいなという思いがずっとありました。

 海外には、こどもたちに映画を見せる活動が盛んに行われている国もありますが、日本はまだまだ少ない。特にこどもと映画を見ようと思ったときに、どれを見たらいいのかというガイダンスがあるサイトがないことに気づきました。そこで、こどもに見せたい映画を紹介するサイトを作ろうと思って、2012年に退職し、親子に特化した映画ポータルサイト 「こども映画プラス」を開設しました。

こどもと一緒に観たい作品や親子で楽しめる映画イベント情報を発信する「こども映画プラス」

――作品を紹介するサイトからはじまり、動画配信サービスに展開していったのはどんなきっかけだったのでしょうか。

 最初サイトでは、親子で楽しめる新作映画、旧作・名作を紹介していましたが、より映画の世界を楽しんでもらえるように、映画の上映と鑑賞後のワークショップの企画や、親子で会話するためのヒントみたいなものを提供する活動もしました。ただ、上映するにはお金もかかるので、なかなか採算が取れない。それだったら、自分で配給権を取得したほうがいいんじゃないかということで、作品の買い付けと配給も始めました。たまたま、自分が気に入った作品「劇場版ムーミン谷の彗星パペットアニメーション」(2010年製作)、「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」(2014年製作)の配給権を取得でき、収益も上がり、会社もまずます安定。当時はヨーロッパのアニメーション作品を買う人が少なくて、競争がなかったのも幸運でした。ところが、2020年、パンデミックが起こり、映画館が閉まってしまう事態になりました。

――あの時は、存続の危機に立たされたミニシアターを救うためのプロジェクトも話題になりましたね。

 映画館が閉まってしまうと配給会社にも全くお金が入ってきません。私もプロジェクトに参加しましたが、配給にまで目を向けてもらうのは難しいなと感じました。その後、映画館が再開してほっとしていたところ、感染が再拡大し、映画館が時短営業をすることになったんです。そのとき、こうした事態は予想できていたはずなのに、配給会社として何の対策もしていなかったという強い悔いと反省が残りました。その後、国の事業再構築補助金の募集を知って、映画の配信を始めることを決めました。いつか、こども映画館を作りたいと思っていたので、オンライン上の映画館という位置付けでやるのもいいなと思ったのがきっかけでした。今後もパンデミックのようなことが起こる可能性はあるだろうし、動画配信プラットホームで映画を見てもらうのも一つの選択肢ではないかと考えたためです。

2022年6月にスタートした動画配信サービスサイト

小さい子も見やすい短編映画に特化

――最初の配信作品は、宮崎駿・原案、高畑勲・演出の「パンダコパンダ」(1972年・日本)や第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した「つみきのいえ」(2008年・日本)など4作品。名作を気軽に見られるのがうれしいですが、Netflix やアマゾン・プライム・ビデオなど、ほかのサービスとの差別化はどう考えましたか?

 こども向けコンテンツもいろいろある中で、小さいこども、未就学児から小学校低学年ぐらいのこどもをターゲットにしたものはあまりないので、5分〜30分程度の短編を4、5本集めて見てもらうことにしました。他で配信しているのは長編が多いので、短編に特化することで差別化を図ろうと。小さいお子さんの集中力はあまり続かないので、短いものがいいだろうし、親御さんにしてみれば見せたい作品を探す手間が省けるというのもあると思うんです。10年間、こどもたちのために映画を紹介してきた「こども映画プラス」だからこそ見つけられる名作を届けられるという自負もあります。

――親が作品を選ぶと、メジャーな作品や自分の好みで選んでしまいがちなので、自分が選ばないような作品に出会えるチャンスにもなりますね。専門家が選んだ良作という安心感もあります。作品選定の基準はありますか?

 映画を好きになってもらいたいので、楽しくてワクワクするような作品、見たことがないような驚きや発見を与えてくれる作品、それから、できるだけいろんな国の作品を選びたいと思っています。実写の作品も選びたいのですが、短編でセリフがないものは少ないですね。吹き替えにはお金がかかるので、アニメでもセリフがないものや、少ないものを選んでいます。全部で1時間くらいなので、親子で一緒に楽しむのはもちろん、家事をしている間にちょっとこどもに見てもらうのもいいと思います。気に入ったものがあったら繰り返し見てほしいし、そこから、今度は映画館に行ってみようというふうになるといいなと思います。サイトが育ってくれたら、小学校低学年ぐらいで見られる長編の作品も配信できるようになったらいいなと思っているので、長く使ってもらえるように工夫していきたいですね。

映画と絵本、見比べてみて

――12月の配信は「ファーザー・クリスマス」。絵本でも人気の作品ですね。

 なるべく季節感を大切にしたいと思っているので、12月はクリスマス。私も子ども時代に絵本を買って、大好きな作品だったので、ぜひ映画も紹介したいと思いました。イギリス人らしい皮肉っぽいところが好きですね。かわいさもありながら、人間くささもあって。グチを言ったり、モモヒキを履いたり(笑)。映画は、『さむがりやのサンタ』(福音館書店)と続編の『サンタのなつやすみ』(あすなろ書房)上手に組み合わせていて、とても楽しい作品です。

「ファーザー・クリスマス」より ©Blooming Productions Ltd 1991,2020

 絵本の原作者レイモンド・ブリッグズさんは、ほかにもたくさん絵本を出していますが、ご自身のご両親の人生を描いた『エセルとアーネスト ふたりの物語』(バベルプレス)という作品も映画化され、私たちが配給しました。そのご縁で、ブリッグズさんにもお会いしました。とても素敵な方でした。残念ながら今年8月に88歳で亡くなられましたが、2020年、パンデミックで渡航できなくなる直前にお会いすることができて、ほんとうによかったです。ブリッグズさんのお父さんは牛乳配達をしていたのですが、「ファーザー・クリスマス」の最後に登場するのでぜひ見てくださいね。

――配信される作品は、絵本が原作のものも多いですか?

 そうですね。こども向けの作品というと、絵本や児童文学がもとになっているものは多いですね。11月には新美南吉の『ごんぎつね』をストップモーションアニメにした「劇場版ごん GON, THE LITTLE FOX」(2019年・日本)もお届けしました。逆に「霧の中のハリネズミ」(1975年・ロシア)や、「つみきのいえ」(2008年・日本)など、映画から絵本になった作品も多くあるので、映画と絵本を比べてみるのもおもしろいと思います。配信は叶わないと思いますが(笑)、宮崎駿監督が『そらいろのたね』(作:なかがわりえこ、絵:おおむらゆりこ、福音館書店)をアニメにした作品もあるんですよ。原作のイメージを大事にしたとてもすてきな作品です。

――これからはどんな展開を考えていますか?

 今の流れを踏まえながら、いろんな作品を配信していくのと同時に、やっぱり映画館で映画を見る体験は唯一無二のものだと思っているので、映画館での上映と映画に関連するワークショップの準備を進めています。本には本にしかない魅力、行間を想像で埋めていく楽しさがありますが、映画を見てまた本を読むことで理解が深まることがあります。映画は私たちをいろんなところに連れて行ってくれるので、こどもたちの人生の一部になって、世界が広がったらいいなと思っています。