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「なぜ理系に女性が少ないのか」書評 日本特有の「社会風土」から分析

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2023年01月07日
なぜ理系に女性が少ないのか (幻冬舎新書) 著者:横山広美 出版社:幻冬舎 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784344986763
発売⽇: 2022/11/30
サイズ: 18cm/234p

「なぜ理系に女性が少ないのか」 [著]横山広美

 経済協力開発機構(OECD)が進める15歳での国際学力テストPISAでは、日本の女子の数学の平均点は、大多数のOECD加盟国の男子や女子の平均を超える。にもかかわらず大学で理系分野に進学する女性の比率は、OECD加盟国で群を抜いて最低だ。この要因は何か。特に女性比率の少ない数学・物理分野に注目し、問う。
 理系の女性研究者が増えない要因にはガラスの天井やマミートラックといった各国共通の問題もあるだろう。しかし、科学技術社会論の研究者が率いる多分野のチームが目を付けたのは日本特有の「社会風土」だ。学力の高い日本の女子学生が理系分野への進学を躊躇(ちゅうちょ)し、各国で進む女性の理系進学率の上昇に日本だけが取り残されている現状を見ると、そこに何らかの独自の要因があると考えるのも頷(うなず)ける。
 ターニングポイントはどうやら中学校らしい。小学校では好きだった物理学も中学校でそうでなくなる。早い段階で嫌いになれば、その後も出会いを避けて進路選択をするようになるだろう。問題は授業での学問の魅力の引き出し方だけではない。物理学や数学の「男性的なイメージ」や、親や教師、ひいては自分自身が内面化してゆく「女性だから」「男性だから」こうあるべきだという心理的なハードルでもあることが示唆される。例えば、「女の子なのに算数ができてすごいね」といわれると意欲が下がるというのは当事者として私も納得できる。悪気なく言っている方が多い故に根は深く、無意識のバイアスの影響は大きい。
 男女問わず中学生の理数系能力を正当に評価し応援すること、高1までに理系分野のキャリアや社会での役割について伝えること。そして、小中学校でのジェンダー平等教育。これらの積み重ねが現状を変える可能性がある。理論と実践の連関が重要であるというこの分野の新たな研究の展開にも期待している。
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よこやま・ひろみ 1975年生まれ。東京大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長(科学技術社会論)。