『対論 1968』
笠井潔・絓秀実『対論 1968』(集英社新書・1100円)は全共闘世代を代表する理論家のドリームマッチ。対話は予想外に穏やかに進むが、対立点を取り繕いもしない。同年代だが、学生組織の委員長だった笠井と、特定党派に属さなかったすがでは感覚も異なる。笠井は連合赤軍事件と内ゲバに対峙(たいじ)し、二〇世紀のニヒリズムを超える大衆蜂起の理論を求めた。すがは連合赤軍には「ショックを受けなかった」と嘯(うそぶ)きつつも、奇妙に生真面目に華青闘告発(在日外国人の立場からの日本人新左翼批判)に対峙し、だからこそ享楽的な無責任さを選び取った。生涯を通して時代経験の「総括」を生ききるとは何か。我々も問われている。
★笠井潔・すが秀実著 集英社新書・1100円
『ゼロからの「資本論」』
斎藤幸平『ゼロからの「資本論」』(NHK出版新書・1023円)は単純な問いから出発する。我々はなぜこんなに長時間、余裕なくつまらなく働かねば生きられないのか? 労働は本来、社会の共有財産=富だ。潤沢な水や空気と同じく。だが資本主義は労働を商品に変える。疎外が始まる。資本主義に災害のように翻弄(ほんろう)される。そして労働の商品化は「自然という富」の破壊と不可分だ。ならば富としての労働と自然を取り返そう。そう主張される。性搾取や能力主義の問題を自発的結社が万能に解決しうるのか、さらなる理論的展開を待とう。
★斎藤幸平著 NHK出版新書・1023円=朝日新聞2023年1月21日