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プチ鹿島著『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』自分が観たアレはなんだったのか

『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』

 想像を絶する苦難の果てにある新事実とはなにか。時を経て、ようやく口を開いた番組関係者たちから驚異の事実が語られる(水曜スペシャル「川口浩探検隊」田中信夫風ナレーション)。
 「僕らはそれをあえてエンタメ番組として編集してただけで、取材テープ自体は貴重な記録ですよ」(当時のアシスタントディレクター・内藤宏)
 「(台本に)セリフはないですね。あるのはディレクターの世界観だけ。タランチュラをここで落とすから驚いてねみたいな」(放送作家・藤岡俊幸)
 1970年代後半から80年代にかけてお茶の間を釘付けにしたテレビ朝日系の「川口浩探検隊」シリーズ。偶然撮れたわけがない映像と灰色の決着にモヤモヤしながらも、映像の圧倒的な迫力と見たことのない異国の風景にワクワクしてしまった人は多いはず。著者は少年時代に全力でこの番組を味わっていたが、冷笑する大人たちとの温度差、そしてどの報道もこの番組について触れていないことに違和感を持っていた。自分が観(み)たアレはなんだったのか。こうして関係者への取材がはじまる。「時効」だからこそ語ることができるのではないか。

 テレビとヤラセは、政治と金の関係ほどに常に付きまとう問題で、「川口浩探検隊」から40年が経った今でも議論になる。しかし、白黒つけてヤラセだからすべてウソ、と断じるのは早計だ。
 「BBCはちゃんと3日間歩いて山に行ってそこで寝泊まりを一緒にする。だからドキュメンタリー番組なんです。僕ら探検隊は人に頼んで山から下りてきてもらっている。(略)ドキュメンタリーとエンタメの違いはそこなんです」(現地コーディネーター・恩田光晴)
 プロセスが違うだけで、実は「真実」なるものは曖昧(あいまい)だ。報道で真実として伝えられたことすら、現地政府の思惑で捏造(ねつぞう)された場合だってあったのだ。探検隊は、机のうえで噓(うそ)を書くのとちがい、目で見る視聴者を説得する「絵」を死ぬ気で作っていく。時にはヘビを手づかみで払いのけ、30メートルの洞窟をひとりでくだり、見たこともない虫に足を嚙(か)まれ、ピラニアに手を嚙まれても「絵」を作っていった。そこはまぎれもなく「ガチ」なのだ。
 著者は2015年から番組関係者に取材し「探検」していくなかで、これまで語られなかった証言を拾い、最後に「伝説のテレビマンは実在した!」へとたどり着く。書籍まるごと「川口浩探検隊」の構成で読める楽しさは尋常ではない。
 8年かけた取材は時代背景や人物の掘り下げ方も丁寧で臨場感があり、メディア史としても重要な一冊だ。「真実」が見えにくくなっている今だからこそ読む価値のある、情報との距離感を体感してほしい。=朝日新聞2023年1月21日掲載

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 双葉社・1980円。ぷち・かしま氏は70年生まれの時事芸人。新聞14紙の読み比べが趣味。著書に『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!』『教養としてのプロレス』など